獨協医科大学病院がこんな思い切ったキャンペーンを始めたきっかけは、臨床研修センター長の下田和孝氏の危機感でした。「臨床研修センターの副センター長に就任した2007年ごろ、レジナビのような合同説明会は全く重視されていなかった。栃木県の合同ブースに椅子を2つだけ置いて、1日10人程度訪れる内部生に事務職が資料を渡して終わりだった」と下田氏は振り返ります。

獨協医科大学病院臨床研修センター長の下田和孝氏。スローガンは「Flexible & Borderless」。

 これでは人気のある研修病院との差はますます開くだけ。2014年に臨床研修センター長となった下田氏は、本格的にマッチング対策に乗り出しました。当時、獨協医大病院の初期研修医はほとんどが内部生で、他大学から来るのはせいぜい2人程度。下田氏は「獨協医大生も大学時とは違う環境を求めて他の研修病院に向かうようになってきていた。同じ遺伝子ばかりでは種が弱るのと同じく、外の文化を入れていかなければやがて滅びる。しかし、獨協医大生ばかりが固まっている大学病院で、他大学の学生が初期研修をしたくならないのは当然。せめて定員の2割くらいは外部生を入れないとまずい」と考えました。

 その外部生へのアピールとして考えたのが、合同説明会の活用でした。まずは見栄えが良くなければ興味を持ってもらえないと考えた下田氏は、新たに加わったデザイナーとともにポスターを刷新します。また、栃木県合同ブースへの参加ではなく獨協医科大学単体のブースを出すことも決断。ブースが目立つようになったことで、来訪者の数は30〜40人程度まで増加しました。

大判ポスターを独自のディスプレイで飾り、椅子には「獨協」マークのカバーをかぶせて目立つブース作りを心掛けた。

 ここで、下田氏は次の壁に当たります。ブースに来てもらおうと医学生に声をかけても、無視されることが多々あります。すると、呼び込みを担当する研修医などが心理的なダメージを負うということでした。「私が声掛けしていても、まったく目もくれずに歩いて行ってしまう学生がいる。3人続けて無視されるとさすがに心が折れる。特に、自分の出身大学の学生に無視されたときは辛かった」(下田氏)。

 この状況を打破すべく参考にしたのが、初期研修医たちが考えたオリジナルグッズをきっかけに、ブースに学生を呼んで話をすることに成功していた高知県の取り組みでした(高知県の初期研修医らの取り組み:脱「オワコン」研修、歯車は動き始めた[2ページ目])。下田氏は高知県のグッズを持ち帰り、「デザイナーと4時間くらいアイデア出しをした」と話します。

 グッズを選ぶ際、下田氏とデザイナーが考えたのは、(1)高知県の「胸骨正中切開ティッシュ」のように、何かアクションが加わること、(2)合同説明会で学生は大量に物を渡されるので、なるべく荷物にならないこと――の2点。そこで製作したのが、獨協医科大学の特製ミントタブレットと、腕に叩き付けるとクルッと巻き付くタイプのUSBメモリーでした。下田氏は、「USBメモリーは特に良かった。腕に巻き付く部分に獨協のロゴを入れ、USBメモリー内には採用資料を入れておく。腕にいきなり巻き付けるので、通りすがりの学生も無視しにくい」と効果を実感しています。グッズを導入したことで、ブース来訪者数は70〜90人まで増えました。

 それでも無視して素通りする学生はいるので、対応する研修医たちが心を痛めないよう、研修医たち全員を説明に専念させることにしました。呼び込みはプロのコンパニオン(「誘導補助員」と呼ぶ)を雇って完全に分担することで、この課題を解決しました。下田氏は、「あるとき隣のブースでとても綺麗な女性が説明していたのを見て、『こんな子の説明なら聞きたくなるかもしれないな』と思ったところからアイデアが出た。コンパニオンさんたちはプロで、無視されても傷つかないし呼び込み自体も上手いので、予想以上の効果があった」と話します。この年、ブース来訪者はさらに倍増して200人ほどになりました。

ある年の獨協医科大学病院ブースのスタッフ集合写真。前列左3人が「誘導補助員」の女性たち。

 この施策には真面目な学生から「そこまでやるのか? 大事なのはプログラム自体なのではないか」と批判も出たそうですが、下田氏は百も承知。「プログラムが大事なのは当然だが、まずは興味を持ってもらえなければ始まらない。私の場合、やはり自分がやっていて楽しくないと、人を巻き込めないし続かないので、楽しく課題解決できるアイデアで勝負したい」と説明します。ちなみにこれまでの施策に、上層部からの批判は一貫してなかったそう。獨協医科大学病院長の平田幸一氏は、予算の使い方も下田氏に一任し、何かを注意することもなかったといいます。

「Dの血族」ページでゲームマスターとして登場する病院長の平田幸一氏。見るからに理解がありそう。

 こうした取り組みをへて、2017年度は初めて基本プログラムで55人のフルマッチを達成。外部生の数も、目標の10人まであと一歩のところまで増えているといいます。その一歩を埋めるための課題は、「獨協医科大学病院のイメージ自体を変えること」だそう。「獨協医科大学病院は、診療科間の押し付け合いなどがない、まさに『flexible and borderless』な環境。柔軟な組織であるということを伝えるために、今回のDの血族キャンペーンのような柔らかい企画に挑戦した」と下田氏は説明します。

 ただし、Dの血族キャンペーンについては予想以上に賛否両論が巻き起こっているそうです。「特に内部の学生に拒否反応を示されたのはショックだった。それでも話題にならなければ意味がないと割り切って、新しい取り組みを続けていきたい」と下田氏は決意新たにしています。

 本来はイベント時のみ扉が開かれる「Dの血族」ページですが、どうしても今見たい!という方は下記のリンクからどうぞ。

■獨協医科大学病院「Dの血族」