こんにちは、Cadetto.jp管理人の増谷です。「介入直後および介入後3カ月目に、43.7%のうつが寛解した治療」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。

 実は、うつ病などの気分障害の人に、あるゲームをプレイしてもらった結果なのです。このゲーム「SPARX」は、先進国の中でも10代の自殺率が最も高いニュージーランドが国家プロジェクトとして取り組んだもので、国立オークランド大学の研究チームが開発したもの。抑うつと不安症状に焦点を絞り、認知行動療法の考え方を組み込んだロールプレイングゲーム(RPG)となっています。

いつでもどこでも楽しい心理ケアを提供したい
 プレイする人は、ゲームを通して感情のコントロールや問題の克服方法、ネガティブな認知との向き合い方などを学び、対人技能を培う練習ができるようになっているとのこと。BMJ誌に掲載された論文によれば、通常の対面カウンセリングによる介入群のうつ寛解率26.4%に対し、SPARXによる介入群のうつ寛解率は冒頭の通り43.7%(P=0.03)で、対面カウンセリングに劣らない効果が得られたとしています(Merry SN, et al. BMJ 2012; 344: e2598.)。

SPARXの画面(提供:HIKARI Lab)

HIKARI Lab代表の清水あやこ氏

 このSPARXを日本でリリースしたのが、日本と米国で臨床心理学を学んだ清水あやこ氏が設立したHIKARI Labです。清水氏は、現状の心理ケアの問題点として、対面カウンセリングに行くまでの物理的・心理的ハードルの高さと、日本の社会では対面カウンセリングの必要性があまり理解されていないことを感じていました。

 そこで、オンラインで場所を問わず気軽に使えること、ゲームで楽しんでいるうちに心理ケアができるという特徴に魅力を感じ、ゲームによる心理ケアを提供し始めました。清水氏は、「これまでにあった勉強型の認知行動療法に比べてずっと楽しい。また、対面でカウンセラーが話すより、イラストのキャラクターが説明した方が素直にアドバイスを受け入れやすいという人もいるようだ」と話します。

もう一段階「日本らしい」ゲーム開発へ
 もっともSPARXにも改善すべき点はあるようで、日本でなじみやすいゲームにしようと努力してはいますが、純粋なRPGに比べるとやや説明的な印象があるそうです。「楽しく認知行動療法を学ぶ」にはとても使いやすいものの、私から見て「ゲームとして熱中できる」と断言はしにくいかもしれません……。

 そこで次にHIKARI Labが現在手掛けているのが、日本人に受け入れられやすい方向に思い切り振った女性向けのスマートフォンゲームアプリ「問題のあるシェアハウス」の監修です。

 このゲームは「ノベルゲーム」というタイプのスマホアプリ。2018年春のリリース予定で、ゲーム制作会社のFavaryが開発を進めています。女性主人公の視点で登場キャラクターの誰かと恋愛するストーリーを、選択肢から行動やセリフを選ぶことで進めていくというものです。

 登場キャラクターはいずれも、裏設定として発達障害や考え方のこだわりなど「生きづらさ」にもなり得る要素を想定して制作。清水氏は、「ゲームでのコミュニケーションを通して、そういった人との向き合い方を学んでもらえれば」と語ります。精神科医にアドバイスをもらいながら、特徴を盛り込んでいるといいます。

 さらに、ゲームを進めるごとに、医師や臨床心理士による心理にまつわるTipsが読めたり、ストレスケアに関するクイズが楽しめるとのこと。ストレスチェックテストを行うと、結果に応じて医師や臨床心理士が監修したアドバイスも読める仕様にする予定です。

 「心理ケアは扱いが難しい領域なので、シリアスなイメージを脱することは怖くもある。しかし、面白そうなゲームだからという動機で遊んでみたゲームを通じて、心の健康に役立つ知識に少しでも関心を持ってもらえたらうれしい」と清水氏は新しいゲームにこう期待を込めます。