津川 例えば先日学会で、「学者の仕事の1つはデータを作ることだ」という話がありました。米国にはオープンアクセスの研究用のデータが複数ありますが、日本はそれほど整っていません。データが存在しないのではなく、シェアされていないだけだと思います。だから私は、民間企業が持っているデータも含めて今使えるデータを探して、「そのデータを使わせてください」とどんどん持ちかけるようにしています。日本でもそうやっていけば、いろんな道が開けるんじゃないかと思っています。

山本 データを使った研究というのは、日本ではまだまだ進んでいないと思います。日本で多いのは、「まずはデータベースを作ろう」という話。日本らしいデータバンキング事業が多いですね。「日本らしい」と言ったのは、とにかく「溜め込む」ということです。ビジネススクールでは、バンキングは「流通」と習うのですが、日本では流通せず溜め込むんです。この溜め込んだデータを誰が使うのか、といった導線がほとんど考えられていないので、データベースとして弱い

 日本は今、何も生えていない荒野です。どこから耕し始めてもいい。データを持っているミナケアの立場で言えば、社会的インパクトのある研究をする人には、データをどんどん提供したい。ただ、つまらない研究にまで対応する余裕はないので、ぜひ「面白い」研究に協力したいと思っています。

 ところで、まずこういう研究をしたい人は、何をすればいいのでしょうか? データの項目を理解するとか、そういうノウハウ、スキルはどうすればいいんでしょう?

津川 米国でも基礎的な方法論はOJTで教えてもらうものではありません。統計学とプログラミングといった最低限のスキルセットは、MPHを取るなど相応の時間とお金を投資して自ら身に付けるというのが基本的なスタンスです。

 今、米国ではメディケアのデータを使える、というだけで仕事が来ます。もっとも、私はメディケアのデータを使えるようになるまで、6カ月掛かりました。メディケアのデータはかなりクリーニングされていてきれいなんですが、それでも変数の意味を理解するだけでそれくらい掛かるんです。しかも身近に何十年もメディケアを使った研究をしている人がいて、聞きながらやっているのに、です。

 変数の意味というのは例えば、「主治医」というコードがあるけど、支払いと関係ないので正しい情報が入っていなかったりするんです。その結果、ある病院では全てA医師が「主治医」になっていたりする。このように、データを収集する過程などを聞いて、変数の信頼性を確認しながらやっています。

山本 メディケアのデータって、アクセス性はいいんですか? 日本ではビッグデータの基礎としてDPCやNDBといったものがありますが、研究者がアクセスしようとするとハードルは高いです。

津川 米国でもアクセスは難しいですね。メディケアのデータを使うには、数千万円の研究費を持っていないと難しいと思います。

山本 ちなみに、津川先生のように論文が大手メディアに取り上げられた結果、実際に政策やガイドラインに反映された、という例はあるんでしょうか?

津川 政策研究は先ほど紹介した研究とはまた別にやっていますが、時間が掛かるので、まだ反映された実例というのはないですね。先ほど紹介したのは昨年から今年に掛けての論文ですし。ただ、自分の研究結果が多くの人の目に留まるように努力しています

 例えば、研究を発表するときは、プレスリリースを出すだけでなく、知り合いのメディアの記者さんに直接連絡します。論文を書いて終わりの研究者が大多数の中、プレスリリースまで書く研究者も増えていると思いますが、記者さんに直接連絡する研究者というのは米国でもまだあまり多くないのではないかと思います。

 メディアに連絡することのメリットは、分かりにくいポイントのフィードバックが来たりすることです。エンドユーザーが何を考え、どう解釈するかといったところまで聞ければ、次のリサーチクエスチョンのヒントになったりもします。私がメディアに出ていると、皆さんはメディアから取材を頼まれて出ていると思われるかもしれませんが、私の場合、多くは自分で取材を持ちかけて取り上げてもらっています。

 日本のメディアの人と話していて驚いたのは、偉い学者や医師のところに取材に行った記者が、知らないことがあると「そんなことも知らないのか」と怒られることがあると聞いたことです。これは米国ではむしろ、学者の説明力の問題であると捉えられます。自分の研究を理解してもらえなければ研究をする意味がないので、アカデミア側も一般人に平易な言葉で伝えられるようにするトレーニングを受けたりします。

山本 最後に、ミナケアが持つリアルワールドデータを使って、社会的インパクトのあるリサーチをするとしたら何をテーマにし、どんなアプローチで解析するかといったリサーチを募集する「リアルワールドデータ活用コンテスト」のお知らせです。

 簡単にいうと、優秀者がいた場合にはミナケアがデータを提供し、津川先生が指導してくれる、というものです。ミナケアのデータが自由に使えるとしたら、どんなことをしたいですか? 着眼点の良さと実現可能性が良いものを選定し、結果によっては津川氏のディレクションの下、リサーチを担えます。

津川 米国のメディケアのデータを使うには数千万円の研究費が必要だと先ほど言いました。なので、このコンテストに通過してミナケアのデータを使えるということは、けっこうな額の賞金をもらっているようなものだと思います。このままでは社会保障費で国が崩壊するかもしれない。そういった課題を解決するようなビッグテーマについて考えてほしいと思っています。

コンテスト応募要項

【利用データ】
3〜5年間程度の健診と医療費のデータ

【優秀賞】
ご応募いただいた中から、着眼点に優れ、実現可能性があるリサーチを山本氏と津川氏が選定。選ばれた方には、スタディーデザインに対する両氏からのフィードバックや、ディスカッションの時間が設けられます。さらに結果によっては、津川氏のディレクションのもと、実際にリサーチを担っていただく機会を提供します。

【応募資格】
リアルワールドデータの解析に関心があり、解析する技術を持っていること。

【書式】
フォーマットは自由。A4用紙1枚に収めてください。

【応募方法】
メール添付で送付。お問い合わせ、提出先はミナケア河合宛(mc_info◆minacare.co.jp)
※◆を@に変えてください

【応募締め切り】
2017年9月30日

【結果発表】
2017年10月16日