こんにちは、Cadetto.jp管理人の増谷です。ようやく梅雨らしくなってきましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。私は気温が上がり始めた4月末、島根県雲南市に行ってきました。

 「地域」に関する話題で、雲南市の名前を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。雲南市の特徴は、約30の地域自主組織があることです。地域自主組織とは、様々な機能を持った課題解決型の住民自治で、雲南市は「小規模多機能自治」の先進地域とされています。インフラなどの基本的な部分は行政が担いますが、細かい地域ごとの生活の課題については市も把握しきれません。通常は陳情などによって課題を認識したりしますが、優先順位などの判断はとても難しいことです。そこで市は一定の交付金を各地域の住民による自主組織に付与し、その自主組織が中心となって解決策を考え、運用までしてもらうという仕組みに変えたのです。

 現在国が進めている地域包括ケアシステムでは、高齢者の尊厳の保持と自立支援の目的の下、可能な限り住み慣れた土地で生活を継続できるような包括的な支援・サービスの構築が求められています。その中でうたわれているのが、「自助・互助・共助・公助の適正な役割分担」を推進することで、社会保障財源の効果的・効率的な配分を実現することです。少子高齢化や国の財政状況から、税金による公の負担を示す「公助」や保険などリスクを共有する仲間で負担しあう「共助」を大幅に拡充することは難しく、「自助」や「互助」といった住民の力を活用する取り組みが果たす役割が大きくなると考えられています。雲南市は、行政が「互助」の支援に取り組んでいる地域といえます。

 雲南市を訪問した目的は、「雲南市をフィールドとし、地域課題へのコレクティブなアプローチを学び、ディスカッションすること」と掲げられていました。「コレクティブ」とは、行政や企業、NPO法人、財団などさまざまな立場の人が共通のゴールを掲げ、お互いの強みを生かしながら社会課題の解決を目指すときに用いられる言葉だそうです。今回も、医療関係者のみならず、教育関係者や学生など、さまざまなメンバーが6つの班に分かれてフィールドワークを行いました。

 私が参加した班は、人口300人ほどの波多地区の自主組織の責任者である本間良一氏らを訪れました。この波多地区の自主組織は、スーパーなどの小売店が全て閉店してしまった際に、地域の交流センターの一室に、自主組織が運営する小売店「はたマーケット」を創設。さらに、車が運転できない高齢者などへの対策として、はたマーケットや近隣病院への送り迎えをする車「たすけ愛号」を所有するなど、生活の課題を解決した例を話してもらいました。これらにかかる人件費などの運営資金は主に市からの交付金で、自主組織がどのような用途に使用するかを決め、運営されています。

 このように、地域住民が主体となった取り組みが豊富にあることで、本間氏たちは少子高齢化の歯止めにも期待をかけています。本間氏は、「ここ数十年、地元の子どもたちは高校を卒業すると都会に出ていってしまっていたが、昨年からは2年連続で高校を卒業した子が地元企業に就職してくれた。地域にいろんな活動があると、その活動を小さいころから手伝ってきた子たちが地域思考を持って、残ってくれるようになってきてくれた」と感じています。

地域医療を25年支える医師が見る地域の変遷
 では、この地で長年診療を行ってきた医師は、どのように関わってきたのでしょうか。約25年前から雲南市の吉田町と木次町で診療を行う西村昌幸氏がいる田井診療所も訪れ、お話を聞きました。西村氏は、吉田町にある田井診療所と、隣の木次町にある西村医院(2地区合わせて人口600人程度)で、1日ごとに診療を行っています。

 医学部を卒業後、大学病院で1年間のインターンをしていたときに、「大学や大病院では、患者とほとんど話もできない。住民に健康に関する教育などをしながら地域で医療を提供していく方がいいのではないか」と思った西村氏。「そのころから地域医療に興味を持つようになった」と言います。その後、志を同じくする医師3人で、いつか一緒に診療所を持つことを約束し、内科、外科、小児科とそれぞれ別の診療科に進んで腕を磨きます。40代前半になって再び集まり、グループ診療の診療所を横浜市で立ち上げていました。

 その診療所を約10年で閉めた後、先にこの地で診療を行っていた義父の要請もあり、ここで診療を始めることになりました。地域に溶け込むため、西村氏は当時、健康情報を掲載したミニコミ誌を発行するなどの工夫もしました。

 「当初は地域住民とのつながりも深かった」と振り返る西村氏。25年たった現在では、「若い人は日中仕事をしているので会うこともないし、何かあると救急車で市街地の病院に行ってしまうため、往診も減った」と言います。往診が減った要因として、西村氏は家族構成の変化を挙げます。「独身男性と親の世帯などは、男性が働きに出ている日中、親が独居状態となってしまい、面倒を見ることが難しい。そのため、早めに施設に入所したり、入院してしまうようだ」(西村氏)。以前は日中独居でも周りの家の人がお茶を飲みに寄ったり、顔を見たりしていたそうですが、高齢化の影響もあってそうした機会も減っていると言います。