こんにちは、Cadetto.jp管理人の増谷です。みなさん、最近ソニーがゲーム機器を発売したことなどで話題のVRをご存じでしょうか。VRとはバーチャルリアリティーのことで、コンピューターで合成された映像や音響などを用いて、自分がその場にいるかのような感覚を体験できる技術のこと。先日、認知症の方の世界を体感できる「VR認知症」を体験してきました。

 ヘッドマウントディスプレイとヘッドホンを装着すると、音響と共に、360℃を見渡せる映像が流れます。キョロキョロしているうちに、まるで自分がその場にいるかのような錯覚に陥り、不安な気持ちになってきます。



 電車の中で、突然今どこにいるのか分からなくなってしまった自分。見慣れない湖に浮くボートに1人取り残されている自分など、5分程度の映像が3種類作製されています。仕掛けたのは、建築躯体メーカーで、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」などを運営するシルバーウッド(東京都港区)社長の下河原忠道氏。VR認知症に取り組み始めた理由を、「認知症の方への理解を深め、差別などの社会的課題を解消するため」と語ります。

風邪は体験したことがあるけれど、認知症を体験したことはない
 風邪であれば、自分もひいた経験があるから、他の人が風邪をひいた時にはそのつらさを理解したり、適切な配慮をすることができる。でも、認知症は自分が経験したことがないから、そのつらさを思い出したり、どう声を掛ければいいかが分からない――。下河原氏は、自分が経験したことがないから認知症の人に理解や共感を抱きにくく、「もう何も分からなくなってしまった人」「何だか怖い」といった差別感情が生まれると考えました。

VR認知症を手掛けるシルバーウッドの下河原忠道氏。

 「記憶障害や判断力の低下など、認知症中核症状は加齢とともにある程度引き起こされるもので、80歳、90歳になっていれば起きても仕方ない面もある。しかし、行動・心理症状は、周囲の人のケアによってかなり現れ方に違いが出ると実感している」(下河原氏)。サ高住の銀木犀に入居している人の中にも、自宅にいたころはトイレ以外の場所での放尿を繰り返すなどの行動症状があったものの、入居後はそうした行動を起こさず、穏やかに暮らしているケースがあります。下河原氏は、「どんな行動にも理由がある。行動心理症状は、周囲の無理解が作り出すものだと思っている。だから、変わらなければならないのは本人ではなく、周囲の心理状態だと考えた」と語ります。

 一般的な講演や映画といった形ではなく、VRを利用したのは、認知症の人の世界を傍観するのではなく、自分のこととして体感してほしいと考えたためでした。「VRは疑似体験ができるので、一人称の視点で物事を考えられると感じた。技術はゲームなどに活用するだけでなく、社会課題の解決に使うべきだと思っている。VR体験を通じてまずは医療者や家族の認知症の概念が変われば、やがては社会が変わり、最後に認知症の人自身が変わっていくと確信した」(下河原氏)。そして2016年3月、1本目のVR認知症を製作しました。

ヘッドマウントディスプレイとヘッドホンを装着し、映像と音響が流れてくると、自分がその場にいるかのような感覚に。

レビー小体型認知症の人の行動症状は「正常な思考」の結果かも
 1〜3本目のVR認知症は、認知症の人の介護に関わる人や証言を基に製作されたフィクションであり、医学的な根拠が担保されているわけではありません。しかし、現在制作中の4本目は、レビー小体型認知症の当事者が監修につき、本人の実体験を再現した映像となる予定。より忠実な疑似体験が可能になりそうです。

 下河原氏は、日頃からレビー小体型認知症の実態が知られていないことを痛感しているそう。レビー小体型認知症は、病名に「認知症」が含まれるため、認知機能が低下する疾患だと思われがち。しかし、監修の当事者の方も含め、認知機能障害を来していない症状の人が多いのも事実です。

 「レビー小体型認知症は、初期段階で幻視などの行動・心理症状が現れるのが特徴。突然家の中で棒を振り回してわめくので、『頭がおかしくなった』と心配して家族が精神科を受診させたが、本人によく聞いてみれば、家に知らない人がいたので家族を守ろうと攻撃したと理由を説明することもある。幻視は本人にとって事実なので、攻撃は正常な思考の結果。幻視を見せているのがレビー小体型認知症であることが理解されれば、周囲の対応も変わると思う」(下河原氏)。

 これまで、体験会などを通して1000人近くの人が体験してきたというVR認知症。「認知症の人は異質な人ではなく、自分たちと地続きの人であることを理解できた」「自分がその世界に入り込み、自分の目で見ている感覚になれたので、認知症の認識が変わった」「物事が理解できない、周りに迷惑を掛ける、怖いというイメージがあったが、自分で経験してみて、認知症の人をより理解できた気がする」といった感想が寄せられています。今後は、認知症や癌を告知される体験ができるバージョンなど、さらにVR体験の枠を広げていくことを計画しています。


■VR認知症プロジェクト(シルバーウッド)
http://www.silverwood.co.jp/vr/

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