病人や旅行者はラマダンが免除される
 ただし、「基本的には生命が優先される」(二見氏)ということもポイントです。例えば、イスラム教徒には1年に1回、1カ月程度の断食期間「ラマダン」があります。健康状態が正常なイスラム教徒は、日の出の1時間前から日没まで飲食を絶つことが求められます。ただし、病人や旅行中の人、妊婦や子どもなどは例外が認められるそうです。実際に、アフリカの国の出身でイスラム教徒の20歳代女性がラマダン中に駅で倒れていたところを救急搬送されてきたケースがありました。脱水状態で輸液が必要だったため、二見氏は「あなたたちが今ラマダン中であることは知っているが、あなたは今、医学的に水分を摂取すべき状態だ」と告げました。すると、女性は、「病人は水を飲んでも良いので」と了承し、処置を受けました。

 他に、イスラム教徒への対応で気を付ける内容として、男女の接触があります。イスラム教徒の場合、家族以外の異性には肌を見せない、身体接触も避けるという戒律があります。生命が優先されるため、医療現場ではそうした戒律を守らなくても容認されるとはいえ、注意すべき点はあるのだそうです。

 例として示されたのは、中東の国の小児が個室病棟に入院し、母親が付き添うことになったケース。担当は男性医師でした。まず小児の場合、「頭に神が宿ると信じられているので、頭をなでるなど不用意に子どもの頭に触ることは避けるべき」と二見氏は言います。回診の際も、個室で男性医師と小児、母親だけにならないよう、女性職員が同席することが望ましいとのこと。さらに、夜は母親がスカーフを外してくつろげるよう、入室するときはノックをし、しばらく反応を待ってから入室するといったルールを決めて対応しました。

死亡後も火葬は禁止
 患者が救命できず、死亡した場合にも注意する点があります。二見氏は、「来世での復活を信じているため、火葬は禁止。遺体は同性の親族か専門の業者が洗ってから白い布に包んで搬送する」と話します。イスラム教徒専用の葬儀会社や墓地が国内にもあるので、そちらを頼るとよいそうです。

 患者が危篤状態のときは、イマーム(イスラム教の指導者)や親族が患者の枕元でコーランを朗読しますが、これは日本の医療機関では難しい場合が多いかもしれません。東南アジア出身の40歳代男性が、日本旅行中に急な体調不良で倒れ、入院したケースでは、友人らが枕元でのコーラン朗読を希望しました。しかしその男性患者への面会は制限されていたため、「別の部屋を用意し、テレビ電話を通して朗読してもらうことにした」(二見氏)。その後、患者が死亡退院となった際には、大使館が患者家族に連絡を取ったり、専門の葬儀会社を指定したりといった対応をしてくれました。

 こうしたケースの紹介を通して二見氏は、「患者の文化や宗教を尊重して理解する姿勢を持ち、患者と対話しながら、できる範囲のことをしてあげれば良い」とまとめました。

「Cadetto.jp」の新着記事は、Cadetto.jpのFacebookページTwitterでも紹介しています。Facebook、Twitterから最新記事をチェックしてください。また、Cadetto.jpへの感想やご意見などは、管理人増谷ができる限りお答えしますので、ぜひFacebookページにお寄せください。