こんにちは、Cadetto.jp管理人の増谷です。みなさんは、米国精神医学会(APA)が2013年5月に発行した「精神疾患の診断と統計のためのマニュアル第5版(DSM-5)」に、「性別違和」という“病名”が記載されていることはご存じでしょうか。 DSM-IVでは「gender identity disorder」とされ、「性同一性障害」と訳されていた分類が、DSM-5で「gender dysphoria」とされることになりました。これに伴い、2014年5月に日本精神神経学会が公表した「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン」において、病名・用語を決める際の基本方針に則って、性別違和と訳されるようになりました(関連記事)。

(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

 性別違和とは、「生まれた時の性が本人の自認する性に反している」状態を指します。性的マイノリティーを指すLGBT(Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender、最近ではQueerを加えてLGBTQということも)の中では、トランスジェンダーの概念に近いとされています。

 3月に公開となる映画「リリーのすべて」は、男性として生まれてきた主人公「アイナー・ヴェイナー」が、あるとき自身の性別に違和感を感じ始め、本来の自分である「リリー・エルベ」として生きるために世界で初めての性別適合手術を受けるというストーリーです。実は、リリーは実在の人物。実話を基にした物語となっています。

 映画の舞台は、デンマーク。デンマークの画家だったアイナーが、風景画の才能を周囲に高く評価されている場面から始まります。妻で、同じく画家のゲルダとは、結婚後数年を経ても新婚のような仲の良さで、充実した日々を送っていました。あるときゲルダは、肖像画モデルの代役をアイナーに頼みます。最初は妻に頼まれ、しぶしぶストッキングとサテンの靴を履き、白いチュチュを服の上から身体にあてがったアイナーでしたが、次第に不思議な感覚が込み上げてきます。



 このとき自分の内側にいた「リリー」に気が付いたアイナーは、説明の付かない気持ちを抱きながらもリリーとして過ごす時間を増やしていきます。心と身体が一致しない状態に苦悩するアイナーは、自分の中のリリーを抑え込もうとして体調を崩してしまいます。作中では、心と身体の不一致を訴えるアイナーに対し、医師が放射線治療を行うなど、今から80年以上前の衝撃的な「治療」が描かれます。

リリーを認めることは、最愛の夫を失うこと
 この作品の軸となっているのは、妻ゲルダとの関係です。ゲルダは、リリーが現れた当初はアイナーの芸術家としての遊びと捉え、リリーの姿をした夫と一緒に出掛けるなど、楽しむ様子を見せます。しかし、変化していく夫を目の当たりにし、徐々に戸惑い始めるゲルダ。「リリーになるのはもうやめて」「私には夫が必要なの。夫を抱きしめたいの」と訴えるゲルダですが、リリーが現れる前の生活を取り戻すことはできません。

 ゲルダにとって、リリーを認めることは最愛の夫を失うことを意味します。それが分かっているリリーも、妻への愛に応えたいという気持ちと、男性の姿をしている自分は本当の自分ではないという気持ちなどが入り交じり、葛藤します。やがて、本来の自分を獲得するために命掛けで未知の治療、性別適合手術に挑むリリー。ゲルダも、夫の本質はリリーであることを少しずつ理解していき、そばで支え続ける覚悟をします。性別を超える、恋人への愛、家族への愛、友人への愛についてそれぞれ考えさせられる作品でした。

リリー役のエディ・レッドメイン(左)と、ゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデル。(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

 リリーを演じるのは、「博士と彼女のセオリー」でALS(筋萎縮性側索硬化症)の理論物理学者、スティーブン・ホーキング博士を演じ、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞などの主演男優賞を受賞したエディ・レッドメイン。妻のゲルダは、「ボーン」シリーズ新作のヒロインに抜擢されたアリシア・ヴィキャンデルが演じます。監督は、アカデミー賞4冠に輝いた「英国王のスピーチ」で名を馳せたトム・フーパー。エディ・レッドメインとは「レ・ミゼラブル」以来のタッグを組みます。

 第88回アカデミー賞では、エディ・レッドメインが主演男優賞、アリシア・ヴィキャンデルが助演女優賞、ほかにも衣裳デザイン、美術など4部門でノミネートされている同作。こちらの行方にも注目が集まります。


『リリーのすべて』
2016年3月18日(金)公開、R15+
配給:東宝東和

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