外務省を辞めスーダンに渡った医師が地域医療にかける思い
 JPCは、昨年に続き2度目の開催。ただし平島氏は今回新たに、奄美大島の住民とJPCの参加者が命について一緒に考える住民参加型企画に挑戦しました。この企画は、平島氏が常日頃から考えている「医療は誰のためにあるのか」ということを具現化したもの。「一生懸命勉強している医療者はたくさんいる。しかし、誰のための医療なのかを考えれば、地域の住民も一緒になって考えなければ良い医療にはならない」と考える平島氏が、「奄美大島から日本の医療を変えたい」という思いを込めました。

 まず流れたのが、スーダン共和国で巡回診療を手掛ける川原尚行氏(国際NGOロシナンテス理事長)と平島氏の対談ビデオ。川原氏は、外務省の医務官として赴任したスーダンで、現地の人々を助けたいという思いを抱き、外務省を辞職。その後、単身でスーダンでの医療活動を開始しました。現在は、3台の車で30の村々を巡回する日々。予防医学を中心に、ワクチンの接種や産前・産後ケア、乳児健診などを行っています。

 巡回診療のため、1つの村を訪れることができるのは月1回程度。緊急対応はできません。そこで、それぞれの村の代表と話し合い、健康教育を受けた「ヘルスボランティア(健康促進員)」を養成しています。川原氏は、「急患の写真を、別の村を巡回している医療チームに送付してもらい、できれば電話も掛けてもらって指示を仰ぐ体制を構築したい」と話します。

 こうした体制を築こうと考えたのは、川原氏自身に「かつては独りよがりなところがあった。チームでという考え方が欠けており、自分が解決してやろうという気持ちが強かった」という反省があるため。「医療は国際NGOが一方的に提供するのではなく、地域が継続できる仕組みを作っていかなければ根本的な解決にはならない」と考えた川原氏は、スーダンの医療従事者を育成する方法や、医療制度の改革を重視して活動を続けています。

 その中で、「地域住民と医師が医療の概念を話す場はもっとあってもいい。概念を変えていかなければならない」という点で思いを同じくする川原氏と平島氏。完成形ではない日本の地域医療ですが、スーダンでの巡回医療に生かせる点は多いと川原氏は考えています。

地域医療は「医師が来れば解決」ではない
 川原氏は、日本の地域医療の課題についてアドバイスを求められることも多いそうです。川原氏はそのやり取りから、「自治体の人は医師が来れば解決すると思っている。医師が来れば解決することは確かに多いが、それだけではない。地域医療は地域住民と医療者と行政が一緒になって作り上げることが最も重要」と指摘します。

 その後の、住民とJPC参加者との討論では、活発な意見交換が行われました。元・中学校教師の70歳代男性は、昔、教え子の1人がハブに咬まれて亡くなったエピソードを語りました。「病院に搬送するまで1時間掛かる地域だったために、その教え子は助からなかったが、もっと病院の近くに生まれていれば助かったかもしれない。医療の地域差を実感した出来事だった。今は病院も増え、人の力で医療の格差はなくすことができるんだと実感した」と言い、「こうした僻地の医療が原点であることをぜひ再認識していただき、引き続き頑張ってほしい」と若い医師たちにエールを送りました。

 西伊豆健育会病院(静岡県西伊豆町)の坂本壮氏は、西伊豆町での診療経験から、脳梗塞で救急搬送されてきた患者1人に対し、家族や近所の人が15人ほど付いてきていて驚いたというエピソードを紹介。「東京都内なら1人の家族と連絡を取ることも難しい。こうした温かさは奄美大島や西伊豆に共通するところではないか」と話しました。続けて、地域の住民に向け、「まずは自分の疾患や飲んでいる薬剤の作用、飲む意味を理解し、自分の命について考えてほしい。その上で分からないことは聞いてほしい。そうすれば、どこに住んでいても良い医療を受けられるのではないか」と語り掛けました。