藤本  そりゃあもう、すごく努力してくれています。当然ながら足を向けて寝ることができません。自分のわがままでアメリカに行ってから本当に感謝しなくてはと思うようになりました。嫁さんが異国の地でここまで努力してくれているのだから、自分は仕事で成果を出さなければならないと思うし、職場で良い評価を得たときは、逐一報告し、感謝しています。自分が評価されることが、嫁さんが米国で頑張ることができるモチベーションになると考えているので。

横林  すごい…ですが、職場でも家庭でもそう取り組んでいくのは、つらくないですか?

藤本  つらいときもあるけれど、評価されたときの達成感が脳内麻薬的に残っているから、必死で頑張っている感じ、ですかね。あと、好きなことに取り組んで給料を頂けるのは恵まれているとも思っています。

横林  そういう人が業績を作っていくんだろうなぁ。

藤本  日本人として米国でサバイブして業績を残すことで、これまで海外で活躍されてきた日本人の先輩方が築いてきた、米国での「日本人の評価」を高められるようにしなければならないという思いもありますね。

横林  僕は語り口が暑苦しいですが(笑)、藤本先生は僕以上に熱い想いを持たれている気がしてきました。最もシビアな世界で戦い続ける方の話を聞けるのは本当にまれなことだし、貴重なことですね。例えば今日の火鍋会に参加している人が、病理に行くことは確定していなくてもMDアンダーソンがんセンター(MDACC)への留学に応募してみてもいいですか?

藤本  病理に進む人材はもちろんのこと、病理を知っている臨床医も同様に必要だと思っているので、問題ありません。ただ、我々のラボで見学できるのは主に病理、特に分子病理の分野が中心となるので、全く興味がない人には応募意欲が湧かないかもしれませんが……。

 これまでにも呼吸器内科志望や内科志望の医学部学生も受け入れています。パイオニアになりたいという人がいればぜひ。留学に来たら、その後の留学の際に履歴書に書けるよう、department発行のappointment letterを発行し、公的な記録に残るようにサポートしますよ。

横林  行くこと自体がキャリアアップになりますよね。学生時代のちょっと頑張って踏み出す1歩がその後に大きな影響を与えることになりますよ。

医学生  留学したからこそ感じた、留学のデメリットはありますか?

藤本  自分自身のことであれば、通常の研究留学は2〜3年で帰るのが一般的なので、同じキャリアを歩んでいる人(ロールモデル)が身近におらず、将来自分がどうなるかが分からない不安が常にあることでしょうか。今後、どうしていくのか、どうなるのかは分かりません。 自分が考えたプロジェクトに取り組めるように環境整備を行い、自分の次のステップを常に模索しながら、今に至っています。

 捉え方の問題だと思います。決まったレールに沿ったキャリアがないというのは、逆に言えば、キャリアを自由に作れるという意味でもあります。不安もありますが、逆に成長するためのメリットにもなります。

 日本の外から日本の医療や日本人がどう見られているのかを体感できるのも良い点です。海外で子どもを育てられるのも、今後を考えると彼らにメリットがあると考えています。メリット・デメリットを考えると、特に若いうちの留学はデメリットよりもメリットの方が大きいと思っています。

医学生  日本に戻ってきた後のキャリアに活かすという視点が留学のモチベーションになっていますか?

横林  それは多分にありますね。地域の現場での医療と研究とまちづくりの融合が僕の夢で、帰国後に開設するコミュニティカフェを併設したクリニックを拠点に海外で学んだことを実践したいと思っているのです。このあたりでまとめとしましょうか。先生方、若手医師・医学生の皆さんにメッセージをいただけますか。

藤本  とりあえず、どこでもいいから海外に一歩踏み出してみればよいと思います。何がきっかけでもいい。自分で勝手に壁を作らず、まずは挑戦してみることが大切です。その後どうするかは、後で考えればよいと思います。

横林  そうですね。自分に言い訳をしないのが大事です。自分がやりたいことの先に留学があるのであれば、まずは行ってみるのを勧めます。今の自分を形成してくれている環境にしっかり感謝をしながらね。自分のやりたいことと社会に還元できることを探しながら前に進んでいってほしいと思います。留学(とその準備)は自分自身を知る大きなチャンスにもなりますよ。

岩本  自分が今までやってきたことの一歩先には常にリスクがあるもの。新しいことを始めるということは常にリスクと隣り合わせ。でも、留学や海外に行くのはそんなに特別なことではないんです。

 医師として、今日よりもっと良い診療をするのは挑戦の一つです。留学や海外というのも、こういう一つひとつの挑戦の先にあるものなんです。今日この場にいて、様々な話を聞いて、火鍋を食って、不安を抱きながらもそれを超えながらやりたいことをやっていくというのが大切なのでは?

土肥  大人になると心配事が増えるようになりますが、自分は逆に恥をかくことに躊躇しなくなりました。留学の本当の理由は、世界的な仕事をしている人や職場環境を、実際の目で見て肌で感じて、そこにチャレンジしたかったからです。あとは、患者さんと接する中で、診断や治療で限界を感じることがあり、もっとできることを増やしたいと思ったのももうひとつの理由です。患者さんと約束もしましたし。色んな気持ちはあるけれど、やりたいことをやる、チャレンジするのが幸せかなと思って留学をオススメしますよ。

横林  皆様、ありがとうございました。火鍋会に参加の皆さんは、留学に関する疑問は解消できたでしょうか。きっかけを探して、やりたいことを実践していってください。