留学してみたい――。そんな医学生や若手医師が漠然と抱く思いを実現するには、様々な準備が必要となります。留学に関する若手医師や医学生の疑問に、留学経験のある医師や今年留学を予定している医師が火鍋を囲みつつ答える会が広島で開催されました。

 本日も第1回「私、これから留学します」、第2回「留学先へのアプローチは一ひねりすべし」に引き続き、その様子をご紹介します。実際に海外で勤務する医師が、海外生活の実態を教えてくれました。


研修医  藤本先生はどのように任期を更新していったのですか?

藤本  私は5年間ポスドクを続けてボスにアピールしました。ステップアップできるかの判断基準はそれまでに出した業績とこれからへの期待です。主に論文の数と質ですね。その他、ボスのプロジェクトで、どのような役割を果たしたのかを、ボスの推薦を得たあとdepartmentのチェアマンにアピールしました。これも重要です。ボスの仕事をこなした上で、Department 内外の他の人の研究のサポートをどれだけしたのかも評価の基準になるからです。

研修医  やっぱり賢い人が多いのですよね。

藤本  海外では、とんでもなくスマートな人たちがたくさんいます。留学先になるような大学は、世界中から各国でスマートと言われている人が集まる施設がほとんどです。なので、いかに自分の自信とやる気を持ち続けるかが大切です。ただ成績優秀ということではなく、これなら負けないという分野を持つのが欠かせません。

土肥  藤本先生の強みは何ですか?

藤本  分子生物学と病理を絡めて研究ができるのが強みですね。あとは、テニス部で鍛えられた、どんなことがあっても倒れない体力(笑)。

 留学先では、入職すると、自分と重複する分野があると見られればすごくライバル視される場合があります。例えばやることなんてないはずなのに、相手が無駄に夜遅くまで残っていたりね。そういった体力勝負になったときに、体力的・精神的にどれだけキャパシティがあるかが大切だと思っています。まぁ、日本人医師であれば日本での働き方を継続すれば全然勝てますけどね。

研修医  うーん、土日は休みたいです(笑)。

藤本  特に、新しいラボに移ったら、皆がやりたがらない雑用 (液体窒素の管理とか、消耗品の注文管理)をやりますよといったアピールをして、自分の立ち位置を確保することは欠かせません。最初のラボでは全体の消耗品の管理発注とかは全て行っていました。

横林  どんなに小さなことでも、自分でいかにアピールするかが大事なんですね。

医学生  留学先でとんでもなくスマートな人たちに出会ったときにどうすべきですか?

藤本  どうしても敵わない相手や、同じレベルに到達するために何年も掛かってしまうような相手に、わざわざファイティングポーズを取る必要はないですね。自分はこっちの分野をカバーするから、そっちを助けてくれと言えばいいんです。向こうにもメリットがあれば、すごく優秀な人も乗ってきてくれる。エキスパートがいるのであれば、任せるという考え方も大切ですね。

横林  確かに、張り合うべきか、それとも相手をエキスパートとして認めて任せるかの線引きは難しいですよね。

藤本  その判断は経験でしか分からないところかもしれません。別次元と思うほど離されないように、自分も努力しなければならないし、同じ分野を進むのであれば、認められてコラボしてもらえるよう取り組めばよい。自ら進んでどうキャリアを構築したいかを考えて、メンターと相談すべきですね。別の言い方をすれば、優秀な人をいかに上手に使えるかが肝ですね。

岩本  すごい人たちがいて、次元が違うと感じたら、もっとすごそうな人に会いに行ってみて、自分の知らない世界を見てみると、また視点は変わってきます。その結果、自分の専門性や方向性が見えるというのもありますね。

横林  特に日本では、医師免許を持っている時点で食いっぱぐれることはありません。ある意味ゴールデンチケットを持っているようなもの。その意味でも、どのような苦労があっても、社会に還元する気持ちを持つべきです。その上で、自分が何をしたいのか、何ができるのかという視点を持つのが大切なのではないでしょうか。

藤本  ゴールデンチケットというのは本当にそう。海外でPhDしか持っていない人は、その職がなくなれば食べていけなくなる。一方で、自分は職にあぶれても、日本に戻れば医師として働くことができる。とても恵まれていると思います。その「帰ることができる」という自分の中の葛藤とどれだけ折り合いを付けて踏ん張れるかが大切です。

横林  確かにどのくらい踏ん張れるかは重要ですが、ときに不安にさいなまれることもありませんか?

藤本  不安は年々増えていくよ。

横林  えぇっ!

藤本  例えば同じ実験がうまく進んで喜ぶと、最初はその余韻が1カ月くらい残る。続ければ続けるほど、その余韻を感じられる期間は短くなる。じゃぁ、次は何をしよう、次は?その次は?と考えてしまう。その結果をまとめてどのジャーナルに投稿しなければならないのか、研究費はいくら掛かるのかと、常にクビになる可能性を頭に入れた状態で努力をし続けるしかない。

横林 そこまでして、アメリカに居続ける意味は?

藤本  やっぱり研究面で一旗揚げたいからですかね。自分が計画して、第一人者として取り組んだ研究の成果を一流雑誌でパブリッシュして、インパクトを与え、臨床に還元したいという野望がある。

横林  それをご家族にはどう伝えていますか?

藤本  家族には目に見える形で示さないとならないので、ポジションを上げていくしかないですよ。もちろん、そう簡単ではないので…もう究極のやせ我慢です。

横林  藤本先生もですが、奥さんも藤本先生を支えるために努力されているのでしょうね。