横林  海外で何を学びたいかによると思います。僕は家庭医(総合診療医)なので、家庭医として臨床留学しようと考えた時期もありました。ただ、ちょうど日本の家庭医療後期研修を修了したタイミングでOHSU(オレゴン健康科学大学)家庭医療科に1カ月短期留学させてもらい、そこで「アメリカの家庭医療研修はとても充実しているけれど、日本での研修でも必要なことは十分学べる。それなら日本のコンテキスト(文脈)でトレーニングする方が自分には合っている」と感じ、臨床留学への思いはなくなりました。

 一方、家庭医として診療していると、色んな疑問点が沸いてきたり、目の前の患者さんの診療だけじゃなく別のアプローチが必要なのではないかと考えるようになりました。

 例えば、金銭的に貧しい家庭の子どもは親と同様の教育・経済状況に将来的になりそうだけれど本当にそうか、そうした子どもでも、より良い教育・経済環境を得る機会を作れるようサポートするにはどうしたらよいのか、医療機関に受診する前の人や受診しない人にはどうアプローチしたらよいのか――など。

 あるいは、家庭医仲間が行っている様々な取り組み(健康教室など)は大変意義深いけれど、きちんと評価されて他の場所でも応用できる形に論文化されているのか、ということも気になったりして。そのあたりの知識を付けて研究手法を学ぶため、「Public Healthの領域で留学してみたい」と思うようになりました。日本でも学べるとは思うのですが、海外で生活してみたいという昔からの夢もありまして(笑)。

医学生  留学先はどのように決めましたか?

横林  当初はアメリカの公衆衛生大学院に入学しMPHを取得するため準備していました。どこがいいか、インターネットで検索したり、留学経験者に話を聞いたりしましたね。準備を始めた頃はかつてカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で1週間見学させてもらったこともあったのでUCLAを第1志望と考えていました。詳細は割愛しますが、コミュニティ参加型研究・アプローチの手法「CBPR(Community Based Participatory Research)」を学びたいと思っていたからです。ただ、申請に向けて色々と調べなからエッセー(なぜその大学院で学びたいかという自己推薦文)を書く中で、ハーバード公衆衛生大学院のイチロー・カワチ先生のもとで学びたいと強く思うようになりました。その後、紆余曲折があり、最終的に研究員として研究留学させていただくことになりました。

医学生  準備を進める中で、自然と行き先が明確になってきたと。

横林  そうですね。行きたい!と思ったら一歩踏み出し、(同居している家族がその時にいれば家族とよく相談した上で)自分の心の声に耳を澄ませば自然と行きたいところが決まってくるように思います。

医学生  先行研究があまりない分野を学びたいと思ったら、留学先はどう探せばよいですか?

藤本  誰も取り組んでない分野に挑戦してみたいのであれば、まずはどこの大学が自分のやりたいことに近いかを探してみましょう。その上で、そのボスと共同研究をしている日本人を探して連絡をしてみるのが一番アクセスしやすい方法でしょう。

医学生  留学について調べていると、色々な情報があって、どの情報に重きを置くべきかが分からなくなってきてしまいます。どうやって情報の取捨選択をしていますか?

横林  行きたい留学先のOB/OGに直接話を聞いてみるのが一番だと個人的には思いました。色んな人を紹介してもらい、メールや日本での面談に加え、現在留学中の方とスカイプで話したり、現地まで見学に行ったり。ネットの情報は概要をつかむに留め、重視はしないようにしていました。

藤本  取捨選択に迷ったら、何を選ぶかよりも自分の中で何を捨てられないかが重要になります。情報過多になった場合、全てを並列に並べて、どの選択肢を捨てられるかで判断していくのがよいと思いますよ。

 例えば、留学するにも費用や、生活のレベル、安全かどうか、研究環境は最先端かなど、様々なところで選ばなければならないことが出てくるでしょう。全てが整っていればよいけれど、実際にはその様な所を探し当てるのは非常に困難です。その中で何を捨てて自分の中で何が重要かをクリスタライズ(短い文章で具体性を残しながら表現)することが大切です。

 もし米国への研究留学で、収入を求めるのならば、まずUSMLEをクリアして、日本の大学の一般的な臨床系教官と同様な立場で研究が行うことができる「フィジシャン・サイエンティスト(Physician scientist)」を目指さなければなりません。

 そこまでしなくても日本の研修医を経て研究がしたいというのであれば、こちらの臨床医と同等の収入を得ることは重点事項に入れないほうがいいでしょう。USMLEを取得してから留学するのか、それとも日本の研修医を経て学位取得後に留学するかを(学生のうちから)考えることが必要です。

 あとは結婚などのライフイベントも考慮する必要があるでしょう。家族ができるのであれば、家族へのメリット・デメリットも考慮した上で、自分のやりたいこととのバランスを常に考えながら方針を決めていかねばなりません。

 私は最先端の研究がしたかったので、何がしたいのか、どのようなことを考えているかを家族に説明して、説得しました。私の将来の展望を理解できないと家族も不安になると思ったので。自分に確固たる自信と根拠があり、強い気持ちの元であれば説得できるはずです(家族の理解を得られたのは最も大きかったです)。(扶養家族を抱えての留学は)家族のサポートがないと失敗してしまうと思います。

横林  家族は本当に大事!

藤本  妻と子どもは日本が大好きなので、説得が少し大変でした。しかも、私が海外勤務を始めたのは上の子が2歳半、下の子がまだ生後2カ月のとき。下の子が首が据わっていなくて飛行機に乗れなかったので、2カ月待って4カ月になった頃に渡米してもらいました。私も当初は海外生活がどうなるか分からなかったので、「まずは1年」と言っていましたが、気付いたら12年。今となっては「大嘘つき!」と言われています(笑)。正直、行ってみないと向こうのメンター(指導者)が自分と合うかは分からないし、どんな考え方の人かも分からないですから。横林先生はいつから留学ですか?

横林  今年の9月からです。

 帰国子女じゃないし、英語も登山もマラソンも……、持続するトレーニングが僕は大の苦手なんです。でも、そこから逃げ続けるのはよくないなと感じたのと、世界を見てみないと前に進めない気がして、留学は絶対したいとずっと思っていました。

 ただ、結婚して福岡から東京に移住して、広島に戻ってきて、と移動しているうちに留学のタイミングが分からなくなってしまって。そうこうするうちに1人目の子どもが生まれて、生まれたばかりの子どもを連れて留学というのは不安で。少し前に2人目が元気に生まれてきてくれたときに家族でじっくり話し合い、真剣に留学に向けて準備しようということになったんです。2017年に予定している新事業(カフェ併設クリニック)のタイミングから考えて、今しかないと勉強を始めた感じです。

 でも正直、子どもが2人いて、夫婦2人とも医師で、かつ妻は大学院生。こんな状況で、勉強する時間はなくて…。なので、毎日3時に起きて勉強していました。36歳にもなって、なんで三平方の定理を英語で勉強してるんだろう…と思うことも。でも、自分の学びたい領域で留学するには僕の知る限りこういう方法しかなかったので、支えてくれる家族と一緒に頑張りました。

 僕は家族が大好きなので、家族とともに行きますが、留学経験者に聞くと、「一人で行ってたら、もっと俺はやれたのに」って言う人が多かったりもします。その点、藤本先生はどうお考えですか?

藤本  それは言い訳でしょう。家族がいても、できる人はできる。

横林  それを聞いて、ちょっと安心しました。