留学してみたい――。そんな医学生や若手医師が漠然と抱く思いを実現するには、様々な準備が必要となります。行き先はどうやって決めるのか、そもそもどのような準備がいるのか、留学中に家族ができたらどうするのか。

 若手医師や医学生のこうした疑問に、留学経験のある医師や今年留学を予定している医師が火鍋を囲みつつ答える会が広島で開催されました。3回に分けて、火鍋会の様子をご紹介します。


横林  本日は、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター(MDACC)で研究者として海外で活躍されている藤本淳也先生、そして広島大学病院総合内科・総合診療科で勤務する傍ら、クルーズ船で船医として診療を担う岩本修一先生、今年からジョンズホプキンス大学に留学予定の土肥栄祐先生、今年からハーバード大学に留学する予定の私、横林賢一が中心となって、医学生・研修医の皆さんからの質問に気さくに答えていきたいと思います。さっそくですが、何か質問はありますか?

医学生  はい! 留学に年齢は関係ありますか?

藤本  基本的に年齢は関係ありません。ただ、最終学歴をとってから10年以内に留学の申請をすることを1つの目安とするのがよいでしょう。特に日本では、申請に「40歳以下」と年齢制限があるところが多いです。加えて申請にはリサーチプランも必要になります。そうなると、専門医などを取得してからとか、一人前の医師になってから申請しようとしても、トレーニングの期間も考慮すると、結果的には申請可能な時期に間に合わなくなる可能性が高くなります。もし、早い時期から留学を経験したいと思っているのであれば、声が掛かるのを待つのではなく、自ら手を挙げてアピールしていく必要がありますね。

医学生  元々は卒業したら医局に入るつもりだったのですが、いざキャリアパスを考えなければならない時期になると、いつ留学をすればよいのか迷っています。

横林  やりたいことがあって、どれも大事にしたいからこそキャリアパスが見えない感じかな?

医学生  はい。卒後にまずは医局に所属して機会を見て留学するのも良いと思いつつ、専門医を取得してからでもいいかなと思ったり。その他にも卒後すぐに留学したり、逆に卒前に留学経験を積むという選択も良いのかなと思ったりもしていて……。

藤本  我々のラボでは、過去に50歳代の修士の学位を持つ病理技師を受け入れたことがあります。留学をしようと思えば年齢に限界はないと言えますね。けれど、留学経験を使って将来のポジションアップを図ろうと思うのであれば、留学に行く時期は早いに越したことはないでしょう。

横林  入局した後に医局に所属した状態で留学できるかどうかは、医局によって様々なようです。ある講座では4年間の大学院のうち3年までに学位をとるための論文が書ければ、残りの1年間で留学できる仕組みを設けています。留学の方法も様々です。海外の大学などとつながりのある医局の教授のサポートによって研究留学を行うパターンが日本だと多いようです。留学先のボスに本人が履歴書を持って直接プレゼンして留学先を決める人もいます。

 そのほか、Master of Public Health(MPH)などの資格を取得すべく、必要な試験のスコアや推薦状をそろえて受験し、留学するパターンもあります。臨床で留学するのであれば、米国の医師国家試験であるUSMLEを受けることがまず必要になります。

医学生  基本的なことですみません。そもそもMPHって何でしょうか?

横林  公衆衛生(Public Health)の修士号(学位)のことです。疫学、生物統計学、医療管理学、健康教育学、環境衛生学、行動科学などに加え、マネジメント能力なども学ぶことができます。MBAの健康版と考えるとイメージしやすいでしょうか。

 MPHコースに応募するのは医学・薬学・看護学など医療系のバックグラウンドを持つ人が中心となります。

医学生  僕は臨床での留学というよりも、公衆衛生の分野でMPHを取得したいと考えています。今からできる準備はやはり英語の勉強ですか?

横林  海外の公衆衛生大学院の受験を考えているのであれば、まずはTOEFLの準備を進めておいた方が良いと思います。GREという数学や国語のスコアも必要です。他には、2〜3通の教授などによる推薦状、エッセイ(志望理由を含む自己推薦文)、CV(履歴書)、大学の成績証明書が求められます。学生のうちから準備しておくこととしては、先のTOEFLやGREのスコアに加え、大学で良い成績をとるよう頑張りましょう(笑)。

 GPA(Grade Point Average)つまり大学での成績は、トップ校を狙うなら高い水準が必要です。特に学生だと履歴書に書ける実績はほとんどないのが普通です。TOEFL、GRE、GPAのスコアを意識して揃えるよう、努力するのがよいと思います。履歴書に書けるようにするため、そしてもちろん自分自身の経験のため、ボランティアなど様々な経験をしておくことも重要です。そうすることで説得力のあるエッセイが書けるようになります。

研修医  米国の研究環境についてですが、フェローの位置づけを教えていただけないでしょうか。

藤本  研究面で言うポストドクトラルフェローは、学位(PhD)を持っているトレイニーのことです。つまりは大学院を卒業して学位を持って勤務している人で、新たな面を取得し将来の独立を備える人ですね。そのために指導教官(教授)の指導のもとで研究を行っています。Graduate Assistant(日本で言う大学院生)を含めて同じようにトレイニーとして扱われます。MDACCであれば、フェローの任期は最大5年。同じ立場ではそれ以上はいられません。5年以上居続けるには、ファカルティ(指導教官)あるいは時間労働制が適用される一般職にならなくてはなりません。

 MDACCの例をとると、ファカルティは「テニュアトラック(終身在職権チャレンジパス)」とそれ以外の「ノンテニュア」に分けられます。多くがフェローを終えてノンテニュアであるインストラクターになり、その後にテニュアまたはノンテニュアのAssistant Professorとなります。各職位は6年勤務とされていて、中間審査を3年ごとに受けて所属するdepartment chairから今後の進路の適性を判断されます。キャリアを考える面談が年に1〜2回はあり、優秀な人は6年満期まで待つことなく、ステップアップの交渉をラボのボスやdepartment chairと交渉します。

研修医  うわ、大変そう。

医学生  臨床留学と研究留学はどちらがいいのでしょうか?