家族への死亡宣告という未知の領域でコミュ力が試される
 次に電話が鳴ったのは、近畿大学6年生の津田郁久さん。「入院患者が急に吐血し、亡くなったので、お看取りをお願いします」という内容が告げられます。

 津田さんがブースに駆け付けると、上級医役の栗山政士氏(西淀病院[大阪市西淀川区]初期研修医)が看取りの手法をざっと説明。まずは「死の3徴候」を確認し、時間を確認して死亡宣告、さらに家族への説明をするところまでを実践します。津田さんはばっちり持参していましたが、お看取りには欠かせない腕時計やペンライトなどのツールも、ブースで貸し出してくれるので、予期せぬ症例でも安心です。

 別室に控えていた患者の死亡を確認してから、横にいる父親に宣告と説明をし、次は死亡診断書を10分程度で仕上げます。法医学の授業で死亡診断書を書いた経験があるという津田さんは、参考書として置いてあった「死亡診断書の書き方」と過去のカルテを片手に書き上げました。

看取りブースでは死亡宣告から死亡診断書の記入までを行い、最後には遺族や遺体からフィードバックを得ました。

 フィードバックでは、上級医役や看護師役からだけでなく、患者役(看取りブースでは遺体役!)や家族役からも意見をもらうことができるのも特徴的。「臨終を確認するところまでは良かったが、途中で家族に対してもっと話し掛けた方がいいのか、話さない方がいいのか迷った」と感想を語った津田さんに対し、栗山氏は「人それぞれで正解はないので、毎回考えること。家族がうまく納得してくれていたら、それでいいと思う」とコメントしました。一方、遺族役からは「(津田さんが)入室する際、ドアの外から入室許可を求められたが、息子が死んで気落ちしているときは『どうぞ』と言うのもおっくう。一言断るだけで入って来てくれてもいいかも」といったきめ細かい感想までありました。

「あれでもない、これでもない」に看護師もイライラし始める
 鳥取大学5年生の中井翼さんが向かったブースで待ち受けていたのは、独歩で救急外来に来た男性。2時間ほど前から動悸がして、薬を飲んでも治まらないと訴えています。まず、服薬歴を聞く中井さん。

中井「今までもこういうことがあったんですね。薬を飲まれているということですが、何を飲まれていますか?」
患者「なんだっけなー…。デパスとかいう薬だっけな?」
中井「これまでもドキドキしたときに医者に掛かったことはありますか?」
患者「近所の先生のところで、薬をもらいました」
中井「そのとき何て言われましたか?」
患者「うーん…心療内科を受診したらって言われましたね」
中井「心療内科ですか…?今も動悸は続いていますか?」
患者「続いています」
中井「そうですか…。ほかに症状はありますか?」
患者「ちょっと全身がダルいです」
中井「それはドキドキが始まってからですか?始まる前からですか?」
患者「同時くらいかなー」

 このように問診を続け、心電図を取ったり聴診したり、X線写真を見たりしますがいずれも異常ありません。動悸の原因が分からず、口腔粘膜や採血データも確認します。すると、そばにいた看護師役の谷田静香氏(西淀病院後期研修医)がイライラし始めます。

看護師「採血も異常ないし、もう帰ってもらっていいんじゃないですか? きっとメンタルですよ。夜食食べたんですよ!」

中井「何か召し上がりましたか?」
患者「ラーメンと餃子です。1日5食を目指しています。私、このまま死んでしまうんでしょうか…」
中井「このまま死んでしまうことはないと思いますよ。血圧などに異常はないので大丈夫だと思いますが、不安ですよね」
看護師「先生、眠いです。早く帰ってもらいましょうよ!」

各検査データをよーく見る中井さん。終了後に、看護師役だった谷田氏からフィードバックとレクチャーを受けます。

 この後、この男性の妻が1カ月以内に亡くなったため現在は一人暮らしであることを聞き出し、中井さんは「この後また胸が痛くなったり頭がぼーっとしたりしたら連絡してください」と説明して終了しました。

 読者のみなさんは、何かお分かりでしょうか? 実はこのブースは、器質的な疾患がない不定愁訴ブースでした。このあたりも、座学では体験しないリアルな設定です。中井さんは、「バイタルが安定しているのでそんなに急ぐ必要はないとは思ったけど、検査を乱立してしまい、フィジカルを後回しにしてしまった。心電図では異常がなかったのに動悸が続いているということなので、何が違うか鑑別できなかった」と振り返りました。

 大谷紗代氏(耳原総合病院後期研修医)は、「救急では緊急性の有無を判断しないといけないので、心電図を確認したのは良かった。それから洞性頻脈の鑑別にいって、この人なんでもないなということは分かったと思うけど、とても不安がっている。そこで何と説明するのかがポイント」とコメント。また、「妻が1カ月以内に亡くなっているために不安が強くなっているというのはヒント。頭の中で一生懸命鑑別を考えていると、患者さんがせっかくヒントをくれても聞き流してしまう。まず、よく訴えを聞くこと」などのアドバイスがありました。

 他にも、1歳の子どもが痙攣を起こして救急外来に飛び込んできたブース、入院患者がせん妄を起こして医療者に激高するブース、小児科病棟に入院している患児の母親が腹痛を訴えているブースがありました。控え室にいても油断はできません。病院の近隣住民が「救急車の音がうるさい!」と怒鳴り込んでくるハプニングイベントや、心肺機能停止の患者が運び込まれたという院内放送が流れ、そのとき手が空いている人全員が心肺蘇生に駆け付けるなど、参加者を寝かせない演出が散りばめられていました。

(左)循環器内科ブース。患者役は、過呼吸の演技に気合いが入る田下氏。(右)全員参加の心肺蘇生コーナー。