ディスカッションの取りまとめを行う国立精神・神経医療研究センター科研費研究員の大滝涼子氏

つらい体験を聞き出す「心理的デブリーフィング」はダメ
 PFAはいくつかの種類があります。今回私が受けたのは、WHOをはじめとする3つの国際機関が協働して作成したWHO版PFA研修です。24の国際機関が推奨し、数カ国語に対応したガイドがあります。WHO版の特徴は、精神保健の専門家向けではなく、一般の人も研修を受けて技術を身に付けられること。専門家が行うカウンセリングのようなものではないので、つらい体験を聞き出す心理的デブリーフィングといった内容は含んでいません。被災者語りのを傾聴はしても、出来事について聞き出して分析させたり、時系列で語らせたりするものではありません。

 例えば、津波に襲われ、1人で自宅にいた高齢女性が避難所に来たという設定でのロールプレイングがありました。高齢女性は、1人で逃げてきたために夫と連絡が取れておらず、安否を気にしています。役所の職員という設定の男性が、まず最初に「何かお手伝いできることはありますか?」と声を掛けます。高齢女性は混乱の中、いろんなことを整理しながら職員の話を聞くことになるので、職員は自分が話すことよりも聞くことを優先し、女性のペースで会話するのがポイントだそう。

 また、女性は自分だけが逃げて来てしまったという罪悪感を感じていることもあります。「逃げてきてよかったんですよ」「まずは自分が生き延びないとね」など、逃げたことを肯定するような発言をするより、自分だけでも避難するという決断についてのみ、「大変な決断をされましたね」と肯定すると良いとのことです。その上で、安否情報が掲示された掲示板を案内するなど、彼女が必要としている支援につなげます。

 こうしたポイントは、PFAの活動原則に則っています。

    (1)準備
    ・危機的な出来事について調べる
    ・その場で利用できるサービスや支援を調べる
    ・安全と治安状況について調べる

    (2)見る
    ・安全確認
    ・明らかに急を要する基本的ニーズがある人の確認
    ・深刻なストレス反応を示す人の確認

    (3)聞く
    ・支援が必要と思われる人々に寄り添う
    ・必要なものや気掛かりなことについて尋ねる
    ・人々に耳を傾け、気持ちを落ち着かせる手助けをする

    (4)つなぐ
    ・生きていく上で基本的なニーズが満たされ、サービスが受けられるように手助けする
    ・自分で問題に対処できるように手助けする
    ・情報を提供する
    ・人々を大切な人や社会的支援と結びつける

 前述の例で、最初に「お手伝いすることはありますか?」と尋ねたのも、支援の押し付けをしないためです。例えば、当然空腹だろうと思って食べ物を支給しても、本人に食欲がなければ貴重な支援物資が無駄になってしまう可能性があります。聞いたときに被災者が支援を必要としていなければ、「いつでも声を掛けてください」と後からでも支援を受けられることを伝えて引くべきだといいます。

 他にも、嘘をつかないことや、確実な情報だけを提供すること、自分自身の偏見や先入観を自覚すること、聞いた話については秘密を守ること、相手の文化や年齢・性別を考慮した行いをすることなどが求められます。

 一方で、してはならないこともあります。支援という立場を悪用することや、支援の見返り(金銭や特別扱い)を求めないことはもちろん、できない約束をしたり、誤った情報を与えることはしてはいけません。また、自分にできることを大げさに伝えること、支援を押し付けること、無理に話をさせること、相手を「こういう人だ」と決めつけることなどはないよう、気を付けなくてはいけません。

 金氏は、「危機的事件が起きた際に人々が適切に行動できるようにするには、日本国内にPFA研修を修了した人を1000万人養成しておく必要がある」と話します。一般の人がこうした意識を持ち、いざという時に自分や周囲のケアをできるように準備しておく必要があるのです。このPFA研修が気になった方は、こちらのウェブサイトをご覧ください。

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