3次救急病院がパンクするのは当たり前、ではER型救急はどうか?
 照会回数が11回以上となる搬送事案が発生する時間を見てみると、医療機関の外来が閉まった18時から徐々に高まり、夜間はどんどん増えて20〜22時が発生数のピークとなります。上原氏は、「このような2次救急の機能低下のしわ寄せは3次救急に行く」と語ります。

 本来は2次救急では診られないほどの重症患者だけを診るはずの3次救急病院は、診療時間外患者や救急搬送を2次救急病院よりも多く受け入れています。「一番多い軽症や中等症の患者が1次・2次救急病院に断られて3次救急病院を受診しているような状態では、3次救急病院がパンクするのは当たり前」と言う上原氏は、1960年代から続いている1次・2次・3次というピラミッド型の救急医療体制を続けるにはもう限界がきているのではないかと疑問を呈します。

2010年7月に開業した川越救急クリニック(埼玉県川越市)

 その代替案として数年前から唱えられるようになったのが、病状に関わりなく患者を受け入れ、病院内の医師がトリアージを行う「ER型救急」です。しかし、ER型救急を取り入れようとした総合病院では、失敗に終わった例も少なくないといいます。ER型救急を設置した当初は、救急を一手に引き受けてくれる上に空床が埋まるため院内からの反応は上々です。「しかし、1〜2年を過ぎたあたりから、各診療科はER型救急から回ってくる患者の対応に追われて疲れてくるし、病棟も常に満床近い状態で忙しく、ERと各科との間に軋轢が生じ始める」と上原氏は訴えます。

これからの救急医療に必要なのは、「受診の敷居が低い」医療機関
 そこで、ER機能を独立させ、大病院の外でやればいい!と始めたのが、川越救急クリニックです。医師は上原氏を含めて2人。木川英氏(日経メディカルにてコラム「救急クリニック24時」を連載中)が加わって医師2人体制となった2013年からはほぼ毎日診療を行っており、診療時間は16時から22時。入院ベッド4床、設備はCTとX線撮影装置のみです。2014年の来院者数は1万3881人で、このうち救急搬送受入数は1727人でした。来院患者の98%が軽症患者で、救急車で搬送されてきた患者に限っても88%は軽症だったといいます。上原氏は、クリニックを開業してからの5年間で「これから求められるのは、他の医療機関が診てくれない時間帯に、疾病の種類にかかわらず診療してくれる救急医療機関。さらに、老若男女、軽症患者でも嫌がらずに診る敷居の低い医療機関だ」と強調します。

 現在、救急科に特化したクリニックは川越救急クリニックと松岡救急クリニック(鹿児島県南九州市、関連記事:「南薩摩地域の救急を1人で支える」松岡救急クリニック)の2カ所。「今後も救急クリニックの開業計画がいくつかある。ニーズは全国にある」と感じた上原氏らが、こうした救急クリニックを広めるために立ち上げることになったのが日本救急クリニック協会なのです。事務局長を務める溝口博重氏(特定非営利活動法人医桜の代表理事)は、「救急クリニックの開業に興味のある医師に向け、経営が起動に乗るまでの運転資金や必要な機材、場合によっては人材の確保や共有をできる体制を整え、運営のノウハウを提供する団体を目指す」と語ります。

 地域のニーズに合わせてスタイルを変え、広がりをみせる救急クリニック。日本の救急医療にどのような変化をもたらすのでしょうか。


 (詳細はNPO法人 日本救急クリニック協会のウェブサイトをご覧下さい)

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