寒さのピークを越えた今日このごろですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。Cadetto.jp管理人の増谷です。寒さ絶頂の1月下旬に、2014年7月末に発足した「日本救急クリニック協会」のキックオフイベントが東京都内で開催されました。救急診療に特化したクリニックといえば、2010年に開業した川越救急クリニック(埼玉県川越市)が先駆け的存在として有名(関連記事:「救急専門の診療所を開業」)。同クリニック院長の上原淳氏が同協会の理事長も務めています。この日は、上原氏が日本の救急医療の課題や救急クリニックを始めたきっかけ、現在の活動実態などについて講演しました。

日本の救急医療の課題について語る川越救急クリニックの上原淳氏

 少子高齢社会といわれて久しい日本。中でも川越救急クリニックがある埼玉県は、高齢化率(2010年から2015年にかけての65歳以上人口の増加率)が最も高い県です。次いで千葉県、神奈川県、東京都と、東京都周辺では高齢化率が著しく高いことが問題視されています。「高齢化がいっそう進展することは分かっており、救急医療の需要はますます高まる。しかし首都圏の救急医療体制は十分な対策が取られているとはいえない」と上原氏は指摘します。

時間外診療に軽症高齢者が押しかける
 2014年12月に総務省消防庁が発表したデータでは、2013年中に救急搬送した人のうち、満65歳以上の高齢者が占める割合は54.3%(290万1104人)と最も高く、2012年から11万4498人増加したとのこと。傷病程度別に見ると、軽症が49.9%と最も多く、次いで中等症の39.5%となります。過去数年の推移を見ると、重症が減少する一方で中等症が増加しており、軽症や中等症患者の搬送が増えていることが分かります。上原氏はこの理由を「高齢者、特に一人暮らしの場合は自分で医療機関に行くこともできないし、頼る人もいなくて軽症でも救急車を呼ぶ場合が多いからだ」とみています。

 高齢者は夕方から夜間にかけての時間帯に「不安」が強くなること、起床して活動を始める明け方といった時間帯に体調不良を感じることも、救急搬送の要請数が増える要因と上原氏は考えています。実際に、消防庁が2013年に行ったアンケートでも、「救急出動件数が増加した要因と思われる項目」(複数回答)として「高齢の傷病者の増加」を挙げた救急隊は約8割に上り、最も多い回答となっていました。

 では、医療機関側は今後さらに増える高齢救急患者にどのように対応したらよいのでしょうか。「最近は、高齢者というだけでどうせ軽症だろうと踏んで救急搬送の受け入れを医療機関が断る傾向がある」という上原氏。しかし、一見軽症に見えても背景に重大な疾患が隠れていることもあり、医師としてはやはり自分の目で確認すべきだと考えています。「例えば、動悸が主訴でやって来たのに、診てみたら大腿骨頸部骨折だったというケースもあった」(上原氏)。こうした患者こそ、全身を診られる医師が対応しなければならないと感じているそうです。

 一方、現在の日本の2次救急体制は、各科の専門医が主体となって救急医療を支えるスタイルが主流となっています。しかも、厚生労働省の2009年のデータでは、当番日における医師の数が1人だという2次救急病院は69%に上ったとのこと。また、医師の数が2人以下まで広げると89%となり、ほとんどが1〜2人で救急医療に当たっているのが現状です。救急車の受け入れ拒否の理由も、「当番医が専門外だから」というものが最も多くなっています。その結果、救急病院が複数あるような地域でも、「今日は整形外科領域は診られません」という事態が起こってしまうのです。