みなさんこんにちは、Cadetto.jp管理人の増谷です。「夏ってこんなに暑かったっけ…」と去年の自分に聞きたくなる季節となりました…。毎日本当に暑いですね。今回は、そんな暑さにも負けない熱い気持ちが持ち寄られたイベント、「ヘルスケアハッカソン」をご紹介します。

 ハッカソンは、「日本の医療イノベーションに立ちはだかるものは?」でもご紹介した通り、“賢い解決”という意味のハック(Hack)マラソン(marathon)を掛けあわせてできた造語です。既存のシステムやソフトウェアの改善を目的とし、アイデアを出すところから、そのアイデアを必要最低限の形に仕上げるところまでを、チームを作って短期間(数時間〜1週間程度)で行います。参加者それぞれの知識と技術を限られた時間内で競うため、精神力と持久力が必要とされ、まさにマラソンといえます。

Healthcare Hackathon in Tokyoの参加者たち

 8月2日〜3日に東京・品川で行われた「Healthcare Hackathon in Tokyo」のテーマは大腸癌(ただし、医療健康に関するアイデアであれば大腸癌に関連しないものでも可)。1日目は横浜市立市民病院の石井洋介氏が、大腸癌についての情報提供と質疑応答を行いました。

 活発な質疑応答の後、それぞれが「医療の課題を賢く解決する」ためのアイデアを考えて発表。賛同者が3人以上集まったらチームを作り、翌日はさらにそのアイデアを練り、2人の審査員を迎えた最終プレゼンテーションに挑みます。審査員は、日本総合研究所総合研究部門戦略コンサルティング部の東博暢氏と、ミレニアムパートナーズ社長の秦充洋氏です。

プレゼンテーションに向けて準備する各チーム

 ハッカソンはもともとIT業界で盛んに行われてきたイベント形式で、医療分野で行うようになったのは最近だそうです。他分野のことはその分野の人に聞くのが一番と考えれば、医療の問題を解決するにも、さまざまな分野の参加者を集めたハッカソンで知識を出し合うのが適しているのかもしれません。医療者が医療の知識や課題を提供し、エンジニアがソフトウェアを実装するための技術を駆使し、デザイナーがユーザーの使いやすさを考える――というように、各々が力を出し合うことで、短期間での開発が実現するのです。結成されたチームの多くは、最終的に実際に動くアプリ画面などを見せながらツールの紹介を行うことができていました。

 今回は、医療者、エンジニア、デザイナーがそれぞれ3割ずつと、各分野の人がバランスよく集まったということです。中には、滋賀県や高知県、沖縄県から駆けつけた人もいました。なんと、愛知県から自転車で来たという強者も!テーマを提供した石井氏も、「それぞれの分野から専門知識を持ち寄ったため、医療者だけでは思いつかないアイデアがたくさん出てきました」と感激。では、白熱したハッカソンで登場したアイデアをご紹介します。

薬剤副作用報告ツールで患者中心の医療を目指す
 最優秀賞に輝いたのは、チーム内に癌経験者がいるというチーム副作用が提案した薬剤の副作用報告ツールです。副作用には、個人差があるもの。そこで、製薬会社が不特定多数の患者から集めた統計的な副作用情報ではなく、患者が自身の副作用情報を発信して患者同士で共有したり、担当の医師に把握してもらうことで、患者一人ひとりが中心となる医療を目指すというツールです。

最終プレゼンテーションの様子

 薬剤の副作用は、医師と患者間に情報の格差があり、評価の不一致があることも分かっているそうです。例えば、大腸癌のとある抗癌剤について、医師が最も重視する副作用が「ED」であるのに対し、患者は医師の半分程度しか気にしていません。一方で、患者が最も気にする副作用は「尿失禁」であるのに、医師は患者の4分の1程度しか気にする人がいない、という例が示されました。このようなことから、初回の処方は医師がエビデンスに基づいた薬剤選定を行うべきだが、「その後に治療を選択する必要があれば、患者がより納得できる治療方針を選ぶべき」というのが提案の趣旨です。

最優秀賞を受賞した「チーム副作用」。左から2番目が審査員の東博暢氏

 このツールは、患者が身体機能に関するスコア(SF36 Physical Component Score)や患者用末梢神経障害質問票PNQ)などを用いて副作用を主観的に評価し、その結果を担当医師もリアルタイムで閲覧できるというもの。他の患者の体験談を読めるようにするほか、患者登録制度によるメーカーへの副作用情報の提供や、診療時間には忙しくて話せない医師と患者が副作用についてコミュニケーションを取り、情報格差を埋めるためのツールとして役立てられるとのことです。

 審査員の東氏は、「これまで医療の中心は医師だったが、SNSの普及などで患者が自分の体験を簡単に発信できるようになってきた。これからは患者中心の医療の時代になると思うので、こうした患者目線のアイデアは重要だ」と講評しました。

 友人に誘われて初めてハッカソンに参加したというチーム副作用発表者の有村琢磨氏(立命館大学薬学部)は、「不特定多数の副作用情報をエビデンスとして集めるのではなく、体験談なども合わせて個々の患者がどう感じているかを把握できるツールは有用だと思いました」と語りました。