押味貴之
氏名 押味 貴之, Takayuki Oshimi, MD
年齢 41歳
現在の職業 大学教員(医学英語教育)
現在の勤務先 日本大学医学部 医学教育企画・推進室
出身大学・学部 立命館大学 国産関係学部(1995)
旭川医科大学 医学部医学科(2001)
Macquarie University Postgraduate Diploma in Translation and Interpreting(2007)
臨床専門分野 医学教育(医学英語)
+αの道に入る前の臨床経験年数 2年(その後も継続)
+αの道に入った後の臨床経験年数 10年
+αの道に入った際の年齢 30歳
+αの道の種類 医学英語、医療通訳、医学教育

何故+αを選んだのか?

英語を母国語としない医師の英語力を高めて、世界の医療の発展に貢献したいと考えています。そのためにはまず日本の医学部における医学英語教育をより実践的で効率的なものに変えていく必要があると考えています。

現在は日本大学医学部で画期的な6年一貫の医学英語教育を開発・運営する一方、他大学の医学生や医師を対象とした医学英語教育や英語医療通訳者の養成にも従事しています。

【なぜ医学英語教育に従事しようとしたのか?】

元々英語が好きだった私は「帰国子女には負けない」をモットーに、NHKのラジオ英会話や映画から貪欲に口語表現を学んで中学高校時代を過ごしました。立命館大学で国際関係学を学んでいた時には海外文学に夢中になり、その時に読んだErich Segalの Doctorsというハーバード大学の医学生たちの青春を描いた小説に触発され、生命科学に関心を抱いていたことも重なって医師を目指すようになりました。

立命館大の卒業後すぐに入学した旭川医科大学では、予備校で英語を教えながら海外留学などで精力的に英語力を磨きました。臨床実習では全科目のレポートを英語で書いて、一部の教授たちから煙たがられたのを覚えています。卒業後は消化器内科に入局しましたが、「好きな英語を職業にしたい」との思いから研修終了と共に離局して、単身カナダ、ニュージーランド、アメリカの医療を視察しました。そこで医療者と患者さんの言葉の架け橋をする「医療通訳」というものに出会いました。

医療通訳は医療者と患者さんの言葉の架け橋をする専門職で、高度な知識とスキルが求められます。しかし日本の医療通訳はその「知識とスキル」の他にも「システム」「人材」そして「認知」が不足しています。これら4つの不足を解消し、医療通訳者が他の医療者と同じように国家資格を持った専門職として活躍できるようにと英語医療通訳を学び、その普及に従事するようになりました。

英語医療通訳に従事する中で医薬翻訳や医学会議通訳、医学論文校閲など幅広く医学英語に関わるようになり、専門的な知識とスキルを磨いていきました。同時にそれらの知識やスキルを他の人たちに伝える仕事にも興味を持つようになっていったのです。

現在は日本大学医学部で医学英語教育を担当する一方、学外でも全国の医学生や医師、さらに英語医療通訳者を対象にして幅広く医学英語教育に従事しています。

どのようにして+α道に入ったのか?

アメリカでBridging the Gapという医療通訳プログラムを受けた後、同プログラムのトレーナーとしてCross Cultural Health Care Programから認定を受け、それから日本国内で英語医療通訳の普及・育成の活動を始めました。その後、応用言語学で有名なシドニーのMacquarie Universityの大学院で通訳と翻訳を基礎から応用まで学び直すと共に、世界で最も発展しているオーストラリアの医療通訳を現場で学びました。

帰国後は英語医療通訳の普及と養成に従事しながら、医薬翻訳、医学会議通訳、医学論文校閲など幅広く医学英語を身につけていきました。2004年からは日本医学英語教育学会に入会し、東京医科大学のBarron先生やBreugelman先生、その後上司となる日本大学医学部のGerling先生といった日本の医学英語教育界の重鎮の方々から様々な形で薫陶を受けました。

2007年に日本大学医学部が6年一貫の医学英語教育を開始するのに伴い、同学部医学教育企画・推進室に医学英語教育担当の助教として赴任、2009年からは同学部医学英語教育主任として、英語を母国語とする4名のスタッフと共に年間300時間以上の医学英語授業を担当しています。

+αの道はどうであったか、何を学んだか?

【なぜ医学英語教育が重要なのか?】

医学の世界では英語が国際共通語だからです。

医学の世界で英語が国際共通言語となっている現在、医師にとって英語は「使えるのが望ましい」というものではなく、「必要不可欠な」スキルと言えます。英語ができないと最新の医学情報を取得することができませんし、増加する国内の外国人患者の診療をすることもできません。また日本語の医学論文でさえもそのタイトルと抄録は英語で書かなければなりませんし、国際学会の質疑応答では英語で堂々と意見を交換する必要があります。このように英語はもはや英語圏での海外留学を希望する医師にだけに必要な特別なものではなく、世界中の医師にとって必要不可欠なスキルとなっているのです。

【どんな医学英語教育が必要なのか?】

「実践的な学習内容と評価方法」を用い、「医学教育と統合」しながら、「多様な学習方法と活動」を提供できる医学英語教育が必要です。

従来の日本の医学部での英語教育は、一般教養の科目として「読む」「書く」「聴く」「話す」という4つの英語スキルの向上を目的としていました。しかし医師にとって本当に必要な医学英語のスキルとは、「医学論文を素早く正確に読める」「医学論文をわかりやすく正確に書ける」「患者や他の医療者の話していることが理解できる」「患者にわかりやすく説明することができる」「ポスターや口頭発表をわかりやすく行うことができる」といった専門的なスキルです。これらを身につけるには上記の4つの英語スキルに加え、様々な医学英語特有の「作法」に関する知識やスキルも身につける必要があります。

そしてこれら4つの英語スキルと医学英語の作法を効率的に学ぶためには「Applicability/Adaptability: 実践的な学習方法と評価方法」を用い、「Integration: 医学教育と統合」しながら、「Diversity: 多様な学習方法と活動」を提供する “AID” が重要になります。

【どんなことを医学英語教育を通して学んだのか?】

「自分の頭で考えることの重要性」と「医学教育の素晴らしさ」を学びました。

私が消化器内科の医局を辞める時、周囲の理解は得られませんでした。周囲には「医学英語や医療通訳などは医師が従事するようなものではない」や「医師としては臨床か研究のどちらかを本業にするべき」といった意見しかありませんでした。

しかし私には「医学英語」や「医療通訳」は「消化器内科」や「血液内科」といった医学専門領域と同じくらい奥の深い分野だという確信がありました。そしてこれらの分野に従事する医師が少ない分、前例もなく、貢献できる領域も広くなり、同時に責任も大きくなるという実感を得ることができました。また医学教育には経験豊富な臨床医や研究医だけでなく、教えることを専門にする人間も従事するべきだという確信も得ました。実際に私のような臨床経験が浅い医師であっても、教育を本業にして技術を研鑽すれば、科目や技術によっては臨床や研究を本業とする先生よりも効果的な教育が可能になります。

このようなことは常識や慣習を疑って、自分の頭で考えることなしには実現することができなかったことでしょう。医師として異質なキャリアを歩んできた今、改めて自分の頭で考えることの重要性を感じています。

患者さんの健康に貢献することが医師の本分です。しかし患者さんの健康に貢献する医師を育てる医学教育も、臨床や研究と同じようにやりがいのある領域と感じています。私が教育者として常に意識していることは「どんな学生もそのままで素晴らしい」ということと、「授業は間違うことができる安全な場所であるべき」ということです。

私は大学で他のどの教員よりも多くの授業を担当しています。もちろんそんな大勢の学生の中には所謂「出来が悪い」「問題がある」と言われる者も多くいます。しかしどんな学生であっても、人間としてはそのままで素晴らしく、たくさんの可能性を秘めています。完璧な人間などいないわけですから、その学生の長所に目を向け、手抜きや怠惰という悪癖から脱せるよう導いていきたいと考えています。そのためには安心して「間違う」ことができる授業環境を提供していきたいと心がけています。その結果、今は医学英語教育を通して何物にも代えられない大きなやりがいを日々感じることができています。

【なぜ医療通訳に従事するのか?】

外国人に優しい医療は誰にとっても優しい医療だからです。

少子高齢化が進む日本では、今後増々「内なる国際化」が進むことが予想されます。しかし現在の日本の制度は移民制度がなく、国内に住む外国人の方のニーズに十分対応できていません。こうした外国人の方の健康を守るためにも、医療通訳は必要不可欠です。外国人の方に優しい医療は誰にとっても優しい医療と言えます。医療現場が言語や文化の多様化に対応しようとする努力は、結果として「患者さん中心の医療」に繋がると感じています。

現職に+αはどう生きているか、または現職が+αそのものの場合は、臨床経験が現在どう生きているか?

●臨床経験によって実践的な医学英語の理解が深まります。

日本語が不自由なく話せても、一般の人は症例プレゼンテーションを行うことができません。同じことが英語にも言えます。つまり医学英語教育は、英語が話せるだけの教員や医学がわかるだけの教員には担当することができないのです。「英語圏の医療者はどのようにコミュニケーションを取るか」ということに精通し、それを違う言語圏、文化圏の学習者がどのように学んでいけばいいのかを考えるのが医学英語教育者の仕事になります。そのためにはアメリカやイギリス、オーストラリアなど様々な英語圏の国の臨床を経験してそれぞれの国や地域で実際に使われている英語表現や作法を学ぶだけでなく、それらを学ぶ学習者の国の臨床も経験し、それらの違いを熟知する必要があります。

また医学英語の分野には論文校閲や学会発表など、一見臨床とは関係が薄い分野もあります。実際、論文の翻訳や校閲、国際会議の通訳をする方の中には臨床の知識や経験が全くないという方も数多くいます。しかし基礎医学も含めて医学分野の研究目的は患者の健康です。そういう観点から考えると医学英語の習得には臨床の視点がとても重要であると言えます。

●通訳や翻訳は機械にできる仕事ではなく、臨床と同じ Art です。

通訳や翻訳のことを「機械に任せられる仕事」と思っている人が多いようです。これはある意味正しく、ある意味間違っていると言えます。たしかに通訳や翻訳にはある程度の「正解」があり、これを間違えては正しい通訳や翻訳にはなりません。しかし異なる言語・文化間には完全なる「等価性」は存在せず、通訳者や翻訳者にはその代替物を創造する主体的な作業が求められるのです。

こういった主観的な作業にはたった一つの「正解」は存在しません。つまり通訳や翻訳も臨床と同じく、機械ではなく人間が行うべき正解のない Artと言えるのです。

この事実は皮肉にも機械翻訳技術の発展とともに強く認識されてきていますが、まだまだ通訳者や翻訳者の社会的地位や報酬はその知識やスキルに見合っていません。これからはもっとその重要性が認識されて、より多くの優秀な人材に医療通訳や医療翻訳を志してもらいたいと思っています。

今後どのようにキャリアを形成していくか?

【日本の医学部における医学英語教育を改善したい】

日本には80の医学部がありますが、その中で実践的で効率的な医学英語教育を実施している医学部は極めて少数派です。

日本大学医学部の医学英語課外活動は他大学にも開放されていて、毎回たくさんの医学生が様々な大学から参加しています。通常の授業とこのような課外活動から得られた知見を日本医学英語教育学会や日本医学教育学会の会員と共有し、日本全国の医学英語教育をより実践的で効率的なものに変革していきたいと思っています。

【アジア各国の医学英語教育を改善したい】

スタンフォード大学およびカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で春休みに Exploring Health Care (EHC)と夏休みにMedical Exchange & Discovery (MED) とい医学留学プログラムが行われています。

主催はVolunteering in Asia (VIA) というスタンフォード大学のアジア国際交流を担当するNPOで、春休みの医学留学プログラムであるEHCは東京女子医科大学および東京医科大学を中心として約17年の実績があります。このEHCではスタンフォード大学やUCSFの医学生コーディネーターとともに米国医療を様々な視点から学びます。

スタンフォード大学、及びUCSFの付属病院はもちろん、老人施設、児童ホスピス施設、同性愛者を対象としたクリニック、学生が運営するフリークリニックや各種研究施設などを訪問し、米国医療を様々な視点から学べるプログラムとなっています。プログラムは全て英語で行われるので、「春休み期間中に医学英語の力をつけたい!」と希望する医学生にとっても良いプログラムとなっています。

夏のMEDですが、こちらは日本人医大生の他、台湾や中国、韓国など他のアジア諸国の医学生も参加する3週間のプログラムです。春のEHCの成功に伴い、2012年から始まりました。参加者の英語のレベルも高くなりますが、滞在がEHCのホテルとは異なりスタンフォード大学の寮に滞在するなど、春のEHCとは異なる魅力があります。

夏のMEDでは医学英語のプログラムも期間中に行われ、History TakingやCase Presentationといった医学英語スキルを学べるような内容となっています。私はこのMEDの医学英語プログラムを担当しています。このプログラムを通して、今後は台湾、中国、韓国など日本以外のアジア諸国の医学生の医学英語の向上にも貢献していきたいと思っています。

【医学英語専門家の養成をしたい】

医療通訳は患者さんの生命に関わる「医療行為」です。そのため医療通訳者には他の医療者と同様に高度で専門的な知識とスキルが求められます。しかし日本の医療通訳にはその「知識とスキル」「システム」「人材」そして「認知」が不足しています。これら4つの不足を解消し、医療通訳者が他の医療者と同じように「国家資格を持った専門職」として活躍できるようになることが理想的です。

しかし日本での医療通訳への財源はほとんどなく、ボランティアに頼っているのが現状です。その打開策として、医薬翻訳、医学会議通訳、医学論文校閲など、高い報酬が得られる Medical Communicatorという医学英語専門家へのステップとして医療通訳を位置づけていくことが重要だと考えています。今後はこのMedical Communicatorがしっかりと教育を受けられる教育機関を設立していくことも大切です。専門的な英語を学びながら病院で臨床体験もできる、そんな医学教育と統合された英語教育機関を設立してことが目標です。

ブログ・ホームページなど

教員紹介

日本大学医学部 医学英語のfacebook

日本大学医学部 医学英語教育の紹介

Medical Exchange & Discovery
Stanford University School of Medicineを拠点とした3週間の夏休み医学留学プログラムです。Faculty Advisorとしてプログラムにおける医学英語教育を担当しています。

Diplomatt School
プロ会議通訳者を養成する通訳学校です。英語医療通訳クラスを担当しています。

著書など

キクタンメディカル4. 保健医療編

医者たまごの英語40日間トレーニングキット

通訳ソーウツ日記

看護に役立つ!実践メディカル英語

Medical いんぐりっしゅ すぐに使える診療英会話

医学英語道場 Medical Communicatorへの道

めでぃかる English

ご自身が紹介されたマスコミ媒体など

・ 朝日新聞「ひと」2006年1月24日

・ ジャミックジャーナル(現ドクターズキャリア)2006年10月号

・実践ビジネス英語 2009年3月号

 

※「臨床+α」の詳細はこちらをご参照ください⇒http://rinsho-plus-alpha.jp/