• 杉田 玲夢氏 Reimu Sugita MD, MBA candidate
  • 年齢 : 30歳
  • 現在の職業 : 大学院生
  • 現在の勤務先 : Duke University, The Fuqua School of Business
  • 出身大学・学部・卒業年度 : 東京大学医学部・2006年卒
  • 臨床専門分野 : 眼科
  • +αの道に入る前の臨床経験年数 : 2年
  • +αの道に入った際の年齢 : 27歳
  • プラスα道後の臨床経験年数 : 0年
  • +αの道の種類 : 経営コンサルティング

何故+αを選んだのか

 初期研修をした病院で病棟業務の合間に参加した四半期の業績説明会が私のターニングポイントでした。そこで自分の病院が数億円もの赤字を10年以上出し続けているということを初めて知りました。ショックでした。普通の企業であればとっくに店じまいしているレベルです。公共性が高いために経営を続けていますが、決してサステイナブルではありません。この地域中核病院がいつかなくなったときの患者さんへの影響を想像しただけで、軽い戦慄すら覚えました。

 研修医からも患者さんからも評判の良い病院であったために、「この病院でこんな状況になっているなら、全国の病院は一体どうなっているのだろう!?」と思い、すぐに新聞やネットで病院の経営状況を調べました。そこで病院の多くが同様に経営赤字に直面しているという危機的状況を知り、「これはなんとかしなくてはならない。臨床から離れても患者さんのために働く道がある」と考え、経営サイドの道を選ぶ決意をしました。

どのようにして+α道に入ったのか

 研修医の時に経営サイドの道を選択してから、将来のキャリアパスが完全に手探りの状態となりましたので、相談するため、ロールモデルを見つけるために、医師・製薬会社社員・経営コンサルタント等、とにかくいろいろな方にコンタクトをとりました。幸い高校・大学の同級生が様々な業界の大手企業で活躍しておりコンタクトは取りやすい状況でした。それでも足りない分には、彼らにさらに知り合いの紹介を頼む、m3から一般の転職エージェントまで活用する、などありとあらゆるツテを使いました。そして、彼らに自分の今の考えを話し、将来のキャリア・実現方法に関しアドバイスを頂きました。

 その中でよかったことは、医療業界の外の方からビジネス寄りの視点で医療業界に対する考え方を伺えたことです。「病院は規模で言えば中小企業であるから生粋のビジネスマンにとっては魅力が少ない」、「オペレーションの効率化だけで病院経営はかなり改善できると思う」、など、聞いたこともない単語や考え方が当時の僕には非常に新鮮でした。そして、その話の中に医療業界へ関わっていく自分の方向性をおぼろげながら感じました。

 色々と話を伺った中で、自分の思いに強く共感してくださり、それを実現するための勉強をゼロからさせてあげようと言ってくださった方がおり、転職先としてその方が経営する経営コンサルティング会社を選びました。

 そこで2年半ほど厚労省や製薬会社などのプロジェクトなどに携わらせていただきましたが、さらにアメリカの医療システムや病院経営を実際にみてみたい、そもそも経営学というものを一から学んでみたい、という思いからその会社を辞め、MBA留学を決意致しました。

プラスαの道はどうであったか、何を学んだか

 転職したコンサルティング会社では、研修医1ヶ月目のような新鮮な驚きの連続でした。研修医の時にルートの入れ方がわからなかったのと同様に、名刺の渡し方・電話のとり方さえわかりませんでした。一つ一つ年下の同僚に聞いて確認しながら、自分でもビジネスマナーの本などを読み日々キャッチアップしていきました。そのゼロ地点から始まり、コンサルタントとしてより本質的な、問題の多面的な検討の仕方・人の動かし方などを学び、それを実践していく楽しさを知りました。

 例えば、私が携わった厚労省の新型インフルエンザ対策立案プロジェクトに関しても、厚労省・製薬会社・病院それぞれの対策に対するモチベーション・スタンスがあり、それらを総合的に考慮していかないとパンデミック発生時に利害関係が発生してしまい迅速かつ適切に機能する対策はできないということなどです。これらを通じて、複雑な問題に対し、どの立場から誰にどのように働きかければ、それが紐解いていけるのかということが考えられるようになりました。

 MBA留学では、まさに日本の対極とも言える、資本主義に強く基づくアメリカの医療システムのメリット・デメリットを学んでいるところです。ミクロではプロのビジネスパーソンによる病院経営戦略や、マクロではそれによる医療費の急激な増大、など日本の医療システムにとってかなり参考になる部分があります。それを教える教授陣もクリントン政権時代にホワイトハウスで医療行政の政策構築に携わった方や希少性疾患の薬剤開発促進の仕組みをFDAと構築した方など実務に携わっていた方なので、実例を踏まえ臨場感を持って学ぶことができます。

 また、アメリカにとどまらず、世界各国のヘルスケア業界から来ている同級生とのディスカッションは、非常に視点も多様で示唆に富んだものになり、そこからの学びも大きいです。

 例えば同級生の中国人は中国で10以上の病院を保有する病院グループを夫婦で経営しています。彼は、中国の激しい貧富の格差を考慮し地域の所得レベルに合わせ提供するサービスレベルと医療費を設定して新規進出したり、識字率の高くない地域では院内のサインを工夫したり、より高度なサービスを求める人にはメディカルツーリズムの紹介をしたりするなど常に様々な問題を検討しているようです。日本での一律の価格・一定水準のサービスに慣れた私にとってはあえてサービスレベルを低くするなどといった考え方は新鮮でした。

 その他にもゲストスピーカーを招いての授業では、イギリスにおけるかかりつけ医の役割、ニュージーランドの医療区の存在など、実際にそのシステムに関わった人たちから話を聞くことができ非常に興味深いです。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 今後は今までに培ってきた経験や知識などを活かして、病院経営改善を軸に日本の医療システムをとりまく問題解決に携わって行きたいと思っています。例えば、個々の病院の経営改善には根本的な中核病院の機能的な再編が必要かもしれません。同様の機能・サイズを持つ病院が都市部などに集中して乱立することで、医師不足・病院間での患者の奪い合い・経営赤字などを生み出している可能性もあります。

 このような問題を解決するために、医師として病院の中から関わっていくのか、経営コンサルタントや公務員として外から関わっていくのか、いろいろな道があると思うのですが、それはまた今後多くの人と出会い、アドバイスを頂く中で徐々に固めていきたいと思っています。

著書など(分担執筆)
「東大医学生が書いた医者いらずの教科書」 インデックスコミュニケーション出版

 

※「臨床+α」の詳細はこちらをご参照ください⇒http://rinsho-plus-alpha.jp/