• 守屋 文貴氏 Fumitaka Moriya, MD
  • 年齢 : 35歳
  • 現在の職業 : プロコーチ、組織開発ファシリテーター、医師
  • 現在の勤務先 : 株式会社アクリート・ワークス
  • 出身大学・学部・卒業年度 : 横浜市立大学医学部・2001年卒
  • 臨床専門分野 : 眼科
  • 前回の記事投稿 : 「コーチング―自分の道を追求するということ」(2008年7月)
  • ≪リンク先≫ http://rinsho-plus-alpha.jp/?p=200

1)現在の職業や近況について、医療とどう関わっているかを中心にご紹介ください。

 現在は、コーチングに加えて、医療機関に特化した組織作りの仕事をしています。病院のスタッフがやりがいと誇り、絆を感じながら働ける職場作りがテーマです。アカデミックな言い方をすると組織開発(OD:organization development)という分野です。

2)前回登場時から、現在に至る経緯についてご紹介ください。

 医師になって4年目に転機が訪れました。臨床医として、希望ある未来を描けなくなっている自分がいたのです。患者さんに喜んでいただけることは本当にうれしかったのですが、不器用だから手術もあまりうまくなると思えないし、かといって研究も向いているとは思いませんでした。一方で、もっと自分の可能性を追求したいという想いは日増しに強くなっていったのです。病院から飛び出して、もっと広い世界で勝負したいと思うようになりました。

 そんなとき、知人の医師から、医療系ベンチャーに創業メンバーとして参画しないかと誘われ、悩んだ末に参画することになります。このベンチャーでの経験は自分にとって苦い思い出、大きな挫折体験であったと同時に、自分が一生をかけてコミットしたいと思える今の仕事への扉を開いてくれる経験でもありましたから、人生は不思議なものです。「人間万事塞翁が馬」ですね。

 ベンチャーは、事業的にも難しかったのですが、それ以上に苦しんだのが、経営陣やスタッフどうしの人間関係でした。次々と経営陣が入れ替わる中で、後任の経営者として、事態の改善を図ったのですが、状況はさらに悪化していきました。結局、心身を限界まですり減らし、ベンチャー経営者という立場から逃げ出すように退任しました。 (ちなみに、今はとてもうまくいっているそうですので、創業時の混乱期特有のことと捉えていただければと思います)

 自分にとっては、初めてと言ってもいい挫折体験で、しばらくは無気力で何にも手をつけられない状態が続きました。しかし、少し落ち着くと、冷静に自分を振り返ることができるようになり、ふたつの疑問が湧きました。

 ひとつは、「どうして、自分は困難に打ち勝つことができなかったのだろう?」ということです。その理由として、自分の意思が弱い、能力が足りなかったからという捉え方もありましたが、そうでない捉え方もあるのだと気付きました。つまり、「意思が弱い自分であっても、困難を乗り越える力やエネルギーを自分に与えてくれるような、深い使命感に根差した魅力的なビジョンを描けばいいのだ。」ということです。

 “Be careful what you wish for.”というイギリスの古い格言があります。「次に選ぶ道は、絶対に自分の才能や能力を活かせる道を選ぼう」と決めました。そして「道を選ぶことそのものに、時間を使おう」と決めました。それがコーチングを受けるきっかけでした。コーチングを受けるうちに、自分が人からどう評価されるかに囚われすぎていたことに気付きました。コーチの「もっと自分のやりたいことを自分で選んでいいのですよ」という言葉は、自分の心の眼を開いてくれたように思います。また、コーチングを通じて、人の成長をサポートすることに自分の動機の源泉があることに気付くことができました。

 そして、自分自身にそうしたことを気付かせてくれたコーチングは素晴らしいと思いました。そして、コーチングそのものがまさに人の成長や可能性をサポートするコミュニケーションであり、それをもっと探求したいという思いが、自分を職業コーチへと導きました。クライアントさんとは、ほとんどが数年以上のつきあいになり、ベンチャー経営者として成功した方や、学校を創る夢に向かってまい進している方、転職を成功させた方など、色々な分野で活躍しています。これは、自分がコーチとして優れているというよりも、コーチング自体が持つパワーだと思っています。

 ベンチャーを辞めてから浮かんだ、もうひとつの疑問がありました。それは組織についてのものでした。能力もあり、夢や志を持って集ったメンバーなのに、どうしてそのエネルギーを有効に活用できないのだろうかという疑問です。1+1が3になるどころか、1+1が−3になってしまったのはどうしてなのでしょうか?

 その思いは、色々な方へコーチングをしている中で、ますます強くなっていきました。コーチングは、個人が自身の可能性に気付き、ビジョンを描き、それに向かって歩むサポートをします。しかし、あらゆる個人は複雑に絡み合った関係性の中にあります。そのような関係性にある人に、コーチングをすればするほど、自分の目的意識やモチベーションの源泉が明確になるために、現実との仕事とのギャップに苦しむ場合があります。独立志向があり、エネルギーが強い人は、古いしがらみを脱却し、自分の力で新たな地平を目指すことができます。でも、自分の夢をあきらめて、組織の歯車になっていくことを選択している人もたくさんいるのが現状です。

 こうして、「組織とは何だろう?」「どうすれば、個と組織の幸福な共存関係が構築できるのだろう」ということを探求したいと思うようになりました。そして、世の中には、組織作りの手法や考え方がたくさんあることに気付きました。システム思考や、U理論、AI(アプリシエイティブ インクワイアリ)やOST(オープン スペース テクノロジー)などのポジティブアプローチ、関係性を改善するシステムコーチングなど様々な考え方に出会い、探求していきました。

 最初は、一般企業の理念策定や、理念浸透プロジェクト、チームビルディングなど様々なプロジェクトを経験させてもらいました。しかし、医療機関の再生をしている友人との対話を繰り返すうちに、自分を育ててくれたフィールドにある医療分野において価値のある仕事をしたい、恩返しをしたいという想いが日増しに強くなっていきました。そして2010年2月、医療機関の組織作りを専門で行う、株式会社アクリート・ワークスを設立することになったのです。

 アクリート(accrete)には「共生」という意味があります。互いを尊重し、支え合いながら成長していく組織像を表現しました。

 今は、10か所ほどの医療機関の組織作りに継続的に関わっています。ほとんど営業もしていないのですが、次々とお話をいただきます。こうした手法が、医療機関には切望されていると今では確信しています。

3)今後どのようなキャリアを形成していきたいか教えてください。

 医療機関という組織はとてつもない可能性を秘めていると思っています。スタッフが、自分の身を削るように一生懸命働く姿を見るたびにそう思います。「もっとビジョナリーだったら?」「もっと良いチームだったら?」「もっと個々のポテンシャルが発揮出来たら?」その可能性を解き放つような仕事をしていきたいと思っています。

 そういう意味では、使命感の方が強く、あまりキャリアのことは考えていません。

4)同じ道を志す方へのメッセージ

 医療従事者の方には、「現場視点を持っている」強みがあります。その強みを活かして、医療に貢献する方法は臨床以外にも無数にあると思います。誰も通ったことのない道を切り開いていくことになるので、大変ですが、とても面白いですよ!

ブログ・ホームページなど
株式会社アクリート・ワークス
http://accreteworks.com

 

※「臨床+α」の詳細はこちらをご参照ください⇒http://rinsho-plus-alpha.jp/