+αの道はどうであったか、何を学んだか

 ベトナムやコロンビアでの経験を通し、障害に関わるということは、医療だけではなく社会全体に関わることであると再認識しています。障害者の幸せには、医療だけではなく、仕事、教育、環境、法制度など、様々なものを変えていかなければなりません。

 例えば、コロンビアで知り合った地雷被災者のオスカルさん(両腕と視力を失いながらも、地雷被災当事者団体の代表を務めたり、観光ガイドをしたりして活躍している方)に幸せについて尋ねたことがあります。そのとき彼が大切だと言っていたのは、機能リハビリテーションなどの医療だけではなく、安定した収入が得られること、そのための教育を受けられること、活動範囲が広がること、社会保障制度がしっかりすることなどでした。国際保健を学び現場で活動したことにより、障害という概念とリハビリテーションの役割を俯瞰的視点から見つめ直すことができたように思います。

  しかしこのような視点の変化は、障害者の幸せのために医療が果たす可能性を過小評価したり、否定したりするものではありません。自分の専門性の軸はやはり医療リハビリテーション(理学療法)であり、それが障害者の幸せに貢献できるものであるという信念は全く変わっていません。

  日本におけるリハビリテーションのパイオニアである上田敏先生は、多くの著書のなかで、リハビリテーションとは「全人間的復権」であるということを繰り返し強調しています。障害者の「新しい人生の創造」のお手伝いができるからこそ、私たちの仕事はやり甲斐があると―。

 コロンビアで、現地のリハビリテーション専門職とリハビリテーションの目的について深く議論したことがあります。なんのために身体機能訓練を行うのか?訓練は日常生活のどこにつながるのか?日常生活が変わるとその人の人生はどう変わるのか?

 コロンビアに限りませんが、忙しい臨床現場では、自宅や地域の中での生活を念頭にリハビリテーションを行う大切さを忘れがちになります。機能リハビリテーションの目的は日常生活活動レベルの向上であり、それが社会参加やより良い人生につながるということは、リハビリテーションの普遍的原則です。そのような当たり前で大切なことを国境や言葉を超えて互いに理解できたこと、またそれをコロンビアの臨床現場に根付かせるための活動ができたことは、ひとりのリハビリテーション従事者としてとても幸せな経験でした。

 一人ひとりの患者さんと接する臨床現場は離れてしまいましたが、それでもリハビリテーションが持つ前向きな力を信じる気持ち、そしてリハビリテーションという魅力的な分野に関われることの喜びは大きくなっているように感じています。

  また、今後の国際協力における日本の潜在力を感じることが増えてきているような気がします。ベトナムやコロンビアでの経験を通し、日本は障害やリハビリテーションについて世界に発信できるものをたくさん持っていることを確信するようになりました。特にこれから高齢化問題に直面する国々にとっては、日本のこれまでの経験や現在抱えている問題を知ることは様々な意味を持つはずです。

 国連障害者権利条約に批准した国が100を超え、CBRの新しいガイドラインや世界保健機構と世界銀行による障害に関する報告書World Report on Disabilityが発表されるなど、障害に対する世界的関心は高まりつつあります。今後、日本が世界に自らの経験を伝えていくことは、全人類にとって大変意味のあることです。

現職に+αはどう生きているか、または現職が+αそのものの場合は、臨床経験が現在どう生きているか

 病院や地域で働いていたとき、理学療法士として常に患者さんの日常生活活動(排泄、歩行、食事、更衣など)を考えていました。一人ひとりの障害者に関わるときにも、障害者をとりまく社会全体に関わるときにも、障害者の日常生活レベルまで具体的に考えられることは大きな強みになっています。

 また、急性期から地域まで、日本国内で横断的にリハビリテーションのプロセスに関われていたことも大きかったように思います。経済的な事情もあり、修士課程在学中も非常勤の仕事を続けていました。意図した結果ではありませんが、様々な形で臨床経験を重ねたことにより、自分の守備範囲も広がったように思います。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 今後、まずは博士号取得に全力を注ぎます。障害者の幸せが社会全体の幸せにつながるという学術的エビデンスをまとめ、日本から世界へ発信したいと考えています。そして将来、多様性を認めあえる社会、障害があってもなくても幸せになれる社会づくりに、学術面とフィールドの両面から貢献できる人材になりたいと考えています。

著書など
【学術論文】
Social capital and life satisfaction: a cross-sectional study on persons with musculoskeletal impairments in Hanoi, Vietnam., BMC Public Health 2011, 11: 206.
【短報など】
「コロンビアの地雷」, 世界HOTアングル,JICA
・「コロンビアにおける地雷被災者リハビリテーションプロジェクトの紹介」 理学療法ジャーナル2009年10月号
・「コロンビアの地雷被害当事者組織」 ノーマライゼーション2010年11月号
・「観光ガイド、オスカルさん。」 ノーマライゼーション2011年3月号
・「コロンビア人のまっすぐな優しさ」 ノーマライゼーション2011年8月号

 

※「臨床+α」の詳細はこちらをご参照ください⇒http://rinsho-plus-alpha.jp/