• 鐘江 康一郎 氏 Koichiro Kanegae, MHA
  • 年齢 : 38歳
  • 現在の職業 : 経営企画室 マネジャー
  • 現在の勤務先 : 聖路加国際病院
  • 出身大学・学部 : 一橋大学商学部 1995年卒業
              University of Washington
              Master of Health Administration Class of 2007
  • もともとの専門分野 : 経営学、マーケティング、会計学、IT、シックスシグマ
  • 医療に関わる前の社会人年数・経歴 : 9年間 
              Bain & Company 1.5年間(経営コンサルティング)
              Oracle Japan 4.5年間(ソフトウェア)
              GE Consumer Finance 3年間(e-Business Marketing)

なぜ医療に関わりたいと思ったか

20代前半:将来は経営に関わる仕事がしたい(Bain)

20代中盤:これからの経営にはITが必須だ(Oracle)

20代後半:ITを経営に活用する仕事がしたい(GE)
という理由で3社の外資系企業で働きました。

 漠然と「経営」という軸は持っていましたが、何を「経営」したいのか?という問いに対する答えは持っていませんでした。

 30歳になる頃、MBAに出願するためにエッセーを書き始めました。MBAのエッセーでは「あなたは何のために働くのか?それは何故か?」といった根源的な職業観に対する答えを求められます。その問いに答えるため、これまでの自分の人生を小学校時代から洗い出し、人生観を見つめ直す作業をしました。

 生き物好きで将来はムツゴロウ王国に入ると信じて疑わなかった小学生時代。飼っていた犬が自分の腕の中で死んでいった中学生時代。文系だったが理系の誰よりも生物が得意だった高校時代。先輩に最初に聞いた質問が「企業の目的は利益の最大化でいいんですか?」だったコンサル時代。

 そんな振り返り作業の結果、自分は単なる金儲けのための経営ではなく、人の「命」に関わる組織の経営がしたいのだ、ということに気づきました。

 もちろん、多くの企業の商品やサービスが人の「命」に関わっています。しかし、その中でも特に(直接的に)大きな影響を与えていて、しかも経営面での課題を抱えている病院経営に魅力と可能性を感じ、一生の仕事とすることを決意しました。

どのようにして医療関連の世界に入ったのか

 MBAに関する情報を集めている中で、アメリカの大学にはMHA(Master of Health Administration)という病院のマネジメントを体系的に学ぶプログラムがあることを知りました。中でも、インターンシップとして病院で実際に働ける点に魅力を感じ、MHA取得を短期の目標に設定しました。しかし、日本の病院経営のことを何一つ知らずにアメリカに渡ったとしても、学ぶこともクラスメイトに貢献できることも少ないのではないかと考え、まずは日本の病院経営を経験するべく行動を開始しました。

 大学の先輩でもあり、東京医科歯科大学で教鞭を取られていた川渕孝一先生の存在をインターネットで知り、飛び込みでアポを取って自分の考えを告げたところ、医療法人健育会の竹川節男理事長をご紹介いただきました。竹川理事長は、病院経営コンサルティング会社で社長を務めるほど病院経営に情熱をお持ちの方で、2004年から1年半ほど、彼のもとで日本の病院マネジメントを学ばせていただきました。結果的に、この健育会での1年半の経験が、留学中もインターン中も帰国後も、とても大きな役割を果たしています。GEから直接MHAプログラムに入っていたかと思うとゾッとします。

 2005年9月、シアトルにあるUniversity of Washington(通称:UW)のMHAプログラムに入学しました。在学中の2006年7月〜2007年8月の約1年間、同じくシアトルにあるSwedish Medical CenterのQuality部門で、Administrative Internとして働かせてもらいました。このとき経験した医療の質向上に対する取り組みは、今の職場でも大いに活かされています。2007年6月にMHAを修了し、2007年9月に聖路加国際病院に入職しました。

医療の世界はどうであったか、何を学んでいるか

 自分がこれまでに働いてきた企業と比べて最も大きなギャップは、働いている人の多様性だと思います。BainにしてもOracleにしてもGEにしても、同じようなバックグラウンドを持つ社員が大半です。しかし病院で働く人は、医師は医学部、看護師は看護大学、薬剤師は薬学部、コメディカルはそれぞれの専門学校、事務職員は一般の大学、といったように、受けている教育からしてバラバラです。これだけ異なった教育を受けた人が一同に介して働いている組織というのは、病院以外にないかもしれません。このことが、病院の経営を難しくしている要因の一つだと考えています。

 また、企業経営ではそれほど意識することが無かったのですが、医療の世界に入ってからは意識せざるを得ないことのひとつとして、お役所(国、都道府県、市区町村)の存在があります。診療報酬の点数やさまざまな施設基準など、最初の頃は「こんな細かいことまで決まっているのか!?」と驚くこともありました。反対に、国がもっとリーダーシップをとって実践するべきことを、一病院や、一医療者に押し付けていると感じることもあります。例えば、電子カルテを個々の病院が莫大なお金を出して購入しなければならないのは合理的ではないと思います。国がシステムを構築し、それを全国の病院がネット経由で使う仕組みが今の技術なら十分実現可能です。

 海外の医療制度は、かなりのスピードで変化していますが、日本の医療制度は、もう何十年も基本的な枠組みが変わっていません。制度が作られた当時とは、生活様式も食生活も病気の種類もテクノロジーも、何もかもが変わりました。日本の医療制度も、次の50年、100年に向けた大きな変換点にきているのではないか、そう感じます。

医療関連の仕事にもともとの専門分野がどう生きているか

 病院とはいえ、組織を経営するという点においては一般企業と何ら変わりありません。これまでに経験してきたすべてのことが役に立っていると言っても過言ではないでしょう。

 中でも最も役に立っている経験は、GEで学んだシックスシグマの手法です。シックスシグマというと「標準偏差」などの統計的な分析のことをイメージする方も多いようですが、実はシックスシグマの本質は、統計ではなく、問題解決の手法にあります。PDCAという言葉を聞いたことのある方も多いかと思いますが、シックスシグマではDMAICと言います。Define(問題を定義する), Measure(現状を把握する), Analyze(課題を分析する), Improve(改善策を実行する), Control(仕組み化する)の頭文字をつなげたものです。この5つのステップを踏んで問題を解決するのですが、それぞれのステップにツールや分析手法が定められています。

 聖路加国際病院の経営企画室の主な仕事は、問題解決プロジェクトの運営管理です。問題点を特定し、その根本原因を洗い出し、対策案を考え、実行に移す。その点においては、企業も病院も大きな違いはありません。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 目的:医療者がもっとHappyになれる病院経営の実現
 方法:(1)中から変える・・・病院経営者の一員として
    (2)外から変える・・・医療系サービスビジネス
    (3)制度を変える・・・医療政策側として

 現在の業務の延長にあるのが(1)のキャリアです。しかし一病院職員としては、実現できる範囲に限界があります。そこで、書籍や講演を通じて、自分の体験やノウハウを広めることにも取り組んでいきたいと思っています。(2)が成功すれば多くの病院にベネフィットをもたらすことができますが、規制の壁が立ちふさがりそうです。(3)に進むことは現時点では考えていませんが、提言したいことは山ほどあります。今後どの道に進むかは、そのときの流れ次第だと考えています。

医療従事者(医師・看護師・薬剤師など)が身につけると良いと思う+αスキルについて

 前述の通り、多様な人が働く組織ですから、自己の専門職の価値観を相手に押し付けるのではなく、多様な価値観を受け入れる寛容さを身に付けるべきだと思います。相手の意見を真っ向から否定するのではなく、一度立ち止まって、なぜこの人はこういう考えなんだろう?と考えることが大切だと思います。もちろん事務職員も。

ブログ・ホームページなど
MHA Forum(MHA留学に関するHP)
著書など
『エクセレント・ホスピタル』From ディスカヴァー・トゥエンティワン(翻訳者として)
原題:Hardwiring Excellence by Quint Studer
全米で38万部を売り上げ、雑誌ビジネス・ウィーク誌のベストセラーにも認定されている良書です。複数の病院を経営してきた元CEOが、その経営ノウハウを具体的に紹介しています。

『医療経営士テキスト』From 日本医療企画
・一般講座 2巻 「経営理念・ビジョン/経営戦略」
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