• 安達 万里子 氏 Mariko Adachi, MHA
  • 年齢 : 38歳
  • 現在の職業 : Oncology Informatics Specialist
  • 現在の勤務先 : Swedish Cancer Institute (シアトル、ワシントン州)
  • 出身大学・学部・卒業年度 : 慶応義塾大学・環境情報学部・1995年
  • Cornell University, Health Administration・2007年
  • 専門分野 : Information Technology

何故医療に関わりたいと思ったか

 大学ではITを専攻していました。当時から医療と福祉に興味があり、どうすればその二つをもっと近づけることができるのだろうと考えていました。その手段としてITに可能性を感じており、専攻のIT以外にも、福祉・医療に関するクラスを聴講していました。

 大学4年生を目前に、母が末期のがんで余命3ヶ月と宣告され、がん闘病を通じ、がん診断から治療、リハビリ、終末期まで全ての局面において、患者と家族が医療チームの中心になるべきだと痛感しました。

どのようにして医療関連の世界に入ったのか

 大学卒業後に、母もお世話になった在宅医療サービスを提供していた会社に就職しました。ITの部署に配属されましたが、激務のため体を壊してしまい、その後は保育園でアルバイト、音楽療法、パーティなどで演奏するピアノ奏者、派遣社員として、様々な業界で仕事をしました。その間も医療・福祉に対する興味は持ち続けており、患者さんと家族中心の医療の実現は、病院の経営を変えていくことが鍵になっていくのではなのではないかと考えはじめました。某外資系IT会社に就職し、ITスペシャリストを経て、ヘルスケアコンサルティングの部門へ異動しました。

 日本の病院は、他の業界のクライアントと比べるとお金がないのだなというのが最初の印象でした。コンサルティング部門に異動してからは、病院だけではなく、保険・政府関連、US本社とのプロジェクトにも関わる機会もあり、日本とアメリカの素晴らしいリーダーたちに接する機会がありました。ヘルスケアの経営を学びたくなったものの、日本で体系的にヘルスケアの経営を学べるところがまだなく、アメリカの大学院に行くことにしました。

 Health Administrationの修士課程では、ヘルスケアのマネジメント、経営の基本を学ぶことができます。マーケティング、IT、財務、会計、戦略、人事、医療法など幅広くカバーしていますが、1年目の夏休みに経営インターンをしてみると、現実と学校での勉強の違いを実感しました。さらに実践を積みたいと思い、卒業後もアメリカに残って働くことを決めました。

医療の世界はどうであったか、何を学んだか

 トヨタ生産方式を経営・臨床に取り入れているバージニア・メイスン病院の改善推進室で、サプライチェーンなどのプロジェクトなどに関わりながらインターンをした後、現在の病院のがんセンター部門で仕事をすることになりました。現在は、市場・顧客分析、マーケティング(ウェブサイトなど)、事業・経営企画支援、IT、情報マネージメントなどのコンサルティング、Patient Experience Mapping(顧客満足度よりも深く、多角的で統合的な顧客満足度/経験調査)などを行っています。

 アメリカの病院の多くが非営利企業です。チャリティケアなど地域への貢献が求められるものの、営利企業と同様に利益を出さなければ、良い人材を雇い、必要な施設や機器をそろえ、質の良い医療が提供できない、という考え方が基本にあります。吸収・合併もあり、CEOが変われば大きく組織も経営陣も経営方針も変わります。病院の中からジョイントベンチャーを立ち上げるなど、新しい試みやイノベーションを促進する組織をつくることができる一方、病院、医師、その他の系列医療機関との関係は複雑であることも多く、経営・運営を難しくする一面もあります。

 経営陣の中だけではなく臨床を行う医師の中にも、MBAを取得して経営に積極的に関わっていこうという人材も多くいて、たくさんの刺激を受けています。

 医師だけではなく、患者さんや家族も積極的に啓蒙・支援活動を行っています。例えば、元がん患者であった人が、経済的援助が必要な他の患者さんのための団体を立ち上げ、患者さんやボランティアによる本格的なファッションショーを大きなクラブで開催して、それを資金に運営していくなど、アイデア・行動力・企画・経営力に優れた患者団体が多くあり、病院はそうした団体と提携することにより、足りないリソースを補いつつ、コミュニティーとの関係を強化していっています。

医療関連の仕事にもともとの専門分野がどう生きているか

 直感で動くことが多いのですが、ITを学んだことは、、ITそのものだけではなく、プロセスの見方、論理的思考を養ってくれたと思います。音楽や派遣の仕事などを通じて、多様な組織形態を観察したりや人に接する機会があり、今の仕事で様々な職種、人種のスタッフと仕事をしたり、病院の伝統的な考え方を超えてプランニングをしたり、プロジェクトをすすめていくことに役立っています。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 生涯にわたって、日本とアメリカだけではなく、世界のがん患者さんをお手伝いする仕事をしていけたらと思っています。

 患者満足度調査だけではなく、患者さんのニーズや期待するサービスなどを想定して戦略策定・意思決定をしていく事が少なくありません。患者さんが長いがん闘病の過程で、すべてのタッチポイント、クリニカルパスで、何を期待しているのか、何に満足したのか、どこに問題があったのか、などをリアルタイムで患者さん、家族やスタッフから聞いて、戦略策定・ケアデザイン、業務プロセスに反映させる仕組みを作っていくことが今年の目標です。

 アメリカでは、顧客満足度を更に深く統合的にしたPatient Experience Mappingという手法が多く取り入れはじめられています。昨年この手法を使って、患者さんと家族へのインタビューを行いました。この結果や患者さん満足度調査などを活用しつつ、患者さんの視点から見た統合的ながんのケアプロセスをデザインするプロジェクトを通じ、病院スタッフが患者さんの視点を持ってケアをデザインしていく文化に変えていくことができたらと思っています。

ブログ・ホームページなど
http://heartnowa.net
(現在関わっているボランティア団体のホームページです)

 ※今月から医療に+αを加える異分野出身エキスパートも紹介しています。

  http://rinsho-plus-alpha.jp/?p=690

 ※「臨床+α」の詳細はこちらをご参照ください⇒http://rinsho-plus-alpha.jp/