• 江副 聡 氏 Satoshi Ezoe, MD, MPH, MPA
  • 年齢 : 35歳
  • 現在の職業 : 国際公務員
  • 現在の勤務先 : 国連合同エイズ計画(UNAIDS)
  • 出身大学・学部・卒業年度 : 佐賀医科大学医学部 2001年卒業
  • ハーバード大学公衆衛生大学院 2006年卒業
  • ハーバード大学ケネディ行政大学院 2007年卒業
  • 臨床専門分野 : 臨床研修
  • +αの道に入る前の臨床経験年数 : 1年半
  • +αの道に入った際の年齢 : 27歳
  • +αの道の種類 : 医療政策、パブリック・ヘルス、グローバル・ヘルス

何故+αを選んだのか

 幼少の一時期にアメリカとイギリスに住んで以来、日本のために国際的な仕事ができればと思っていました。医学部に入学後、そのような観点で進路の選択肢について調べていくと、緊急医療援助、臨床留学、在外公館の医務官など、臨床医として海外で働く道があることがわかりました。

 一方、WHO西太平洋地域事務局で研修した際、国際保健や医療政策を含む公衆衛生という立場から、集団としての健康を後押しする道もあることを教わり、その地道かつダイナミックなアプローチに惹かれ、その道をキャリアにすることに決めました。

どのようにして+α道に入ったのか

 公衆衛生や医療政策の実践の場としては、日本をベースにして経験を積み、留学によって学問としての医療政策や国際保健を学び、その上で国際機関でも仕事が出来ればと考え、厚生労働省に入りました。

 実際、まずは主に国内の保健医療政策に携わり、公衆衛生大学院と公共政策大学院への留学を経て国連機関に出向し、今に至っています。

プラスαの道はどうであったか、何を学んだか

 【国際公務員という道】

 現在の職場である国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、すべての必要な人にHIV/AIDSの予防・治療・ケアを行きわたらせることを目標とする国連のエイズ調整機関です。私の仕事は世界のエイズの現状と展望をまとめた世界エイズ白書ともいえるグローバル・レポートの分担作成、政策のモニタリング評価やヘルスシステム(保健医療制度)に関する技術案件、日本との調整などです。

 「国際公務員」という言葉が示すように、国連は行政機関の一種ですので、医師出身でも直接診療や研究をするわけではなく、問題設定や議論の場を提供したり、関係者の利害を調整し合意形成をうながしたりと、裏方としての仕事が主です。組織や部署にもよりますが、私が所属する部署では、疫学、統計学や医療経済学など技術的な素養は必要ですし、要所で自ら分析・評価を担うこともありますが、主な役割は企画・調整にあります。したがって、分析の一部を専門家やコンサルタントに委託したり、各ステイクホルダーの代表者や学識者から構成される審議会に事務局として諮問したりすることもあります。こうした仕事の進め方には日本の行政と共通項が多く、これまでの経験も役に立っていると感じます。

 【国連の仕事と学び】

 もちろん、現在の仕事からの学びや気づきも多くあります。企画・調整がメインといっても、比較的腰を据えてデータの分析に取り組む機会もありますし、外部の研究機関などと共同で調査・分析を進める中で得るものも少なくありません。また、時折、国際会議や各国のプロジェクトなどで出張があるので、国際保健の政策決定の現場やそれが国レベルでどのようなインパクトがあるのかをうかがい知ることもできます。日本との関係では、世界のエイズ対策において日本の国内対策や海外援助の状況を正しく伝えることや、世界と日本のエイズ対策を調和させることも重要な課題です。

 【『政策留学』で学んだこと】

 留学もいまの仕事に役立っています。留学先は、医療政策を体系的かつ多角的に学びたいという思いから、公衆衛生大学院(MPH)と公共政策大学院(MPA)に進みました(後者は、「+αの道」参照)。公衆衛生大学院(MPH)では疫学、医療経済学、医療政策論など「エビデンスに基づく医療政策の立案手法」を学びました。公共政策大学院(MPA)では、リーダーシップ論、パブリック・マネジメント、交渉術や医療以外の分野から「政策の実現手法」を学びました。また、指導教官や世界各地・各分野出身の同級生からはその経験から多くを教わり、一部とはいまでも交流が続いています。

 なお、留学中に特に印象に残った医療政策論の教科書(「実践ガイド:医療改革をどう実現すべきか」)とリーダーシップ論の教科書(「最前線のリーダーシップ」)は、それぞれ共同で日本語に翻訳しましたので興味のある方はお手に取っていただければ幸いです(下記「著書など」参照)。

現職に+αはどう生きているか、または現職が+αそのものの場合は、臨床経験が現在どう生きているか

 短い臨床経験でしたので、臨床医としてものを言う立場にはありませんが、医療現場の状況を想像する助けにはなっています。ただ、政策立案に最新の臨床知見が必要な場合は、一線の臨床家に謙虚に教えを請うたり、エビデンスを整理・解釈することも大切です。さらに、医療政策、国際保健の現場は、医療のみならず保健、福祉、開発援助などと幅広いので、そうした現場との対話や広範な勉強が欠かせません。もちろん、一人の経験や能力は限られていますので、多職種のチームワークが求められますし、一線の専門家や当事者とのネットワークも重要です。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 「公衆衛生(パブリック・ヘルス)」は、医療政策や国際保健を含み、政治経済や外交にも拡がりのあるダイナミックな領域だと感じています。実際の仕事は錯綜した利害の調整など地味な仕事が多いですし、受益者に直接感謝されることはあまりありませんが、多くの人々の健康や幸せを向上させるポテンシャルがあります。

 国際保健政策の現場で感じることは、感染症のみならず、慢性疾患やヘルスシステムも世界の保健医療の重要課題となってきているなど、国内の医療政策との垣根が低くなってきているということです。こうした状況をとらえて、従来の「国際保健(インターナショナル・ヘルス)」は「グローバル・ヘルス」と呼ばれることも増えてきました。

 今後は、国連でグローバル・ヘルスの課題に取り組みつつ、その過程で得られた知見やネットワークを何らかの形で日本の課題にも役立てることができればと考えています。

 現在の同僚やカウンターパートには政策や経営など臨床以外の領域をホームグラウンドとする医療系出身者も少なくないので、私のようなキャリアもあまり違和感はないようです。より多くの医療者が国内外の政策の現場にも参画していただくことを願っています。

  

 注)本記事は筆者の個人的見解であり、いかなる組織の公式見解でもありません。

ブログ・ホームページなど
UNAIDS・HP
 http://www.unaids.org
連載「ジュネーブ国際機関だより」日経メディカル・オンライン
 http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/series/jtayori/
著書など
「実践ガイド:医療改革をどう実現すべきか」 (原題:Getting Health Reform Right)
    日経新聞出版社 (共訳・黒川清氏推薦)
「最前線のリーダーシップ」 (原題:Leadership on the Line)
     ファーストプレス (共訳・竹中平蔵氏監訳)

 

※「臨床+α」の詳細はこちらをご参照ください⇒http://rinsho-plus-alpha.jp/