患者さんにとっての価値、医療者にとっての幸せ

阿部 医療には、ただでさえ患者さんと医療者の間に大きな情報の差があります。患者さんも医療者もお互いに必要な情報を伝えられなければ、さらにその情報の差が拡がって、最終的に患者さんの目指す生活を実現することが難しくなると思います。そのような意味で、この本は患者さんの人生にとって新しい価値を生み出すきっかけになりえるのではないでしょうか。

高橋 そうですね。 私は今慢性期の外来で勤務していますが、患者さんに医療を提供するときには、本人の価値観や経済状況、生活が絡んできます。これからさらに高齢者が増えれば、患者さんの個別性が絡んでくる慢性期での関わりがさらに増えてきますから、患者さん側も医療に参加する機会が増えます。その時にこの本で書いたようなことを活用してもらいたいと思っています。

私自身が神経内科医として外来にいることもあって考えることですが、今後、専門性の高い外来の重要性は、ますます大きくなっていくと考えます。なぜなら、今後さらに慢性期の患者が増えるためと、必要以上の入院は避けてできるだけ外来診療で検査や治療を行っていかざるを得なくなるからです。昔は入院して行っていた大きな検査や抗がん剤の点滴治療なども今では外来で行う動きに変わってきています。また、外来の限られた診療時間の中で患者さんと医療者のコミュニケーションをより良くすることは、医療者側の職業人としての幸せにも貢献できると思います。

限られた診療時間をどう使うか

阿部 こちらの本には「3分診療の中で患者さんと医者のコミュニケーションを円滑にする」という前提があると思いますが、これは今までの健康に関する本になかった視点なのではないでしょうか。

高橋 3分診療は決して良いことではないと思いますが、良いことではないと言っていてもそれでは来年この状況が変わるかというと、そういうわけにはいきません。しかし、患者さんはどんどん増えていいきます。だから、今は限られた時間をいかに使うかに焦点を当てました。

阿部 ご自身が診療される中で、思われるところがあったということでしょうか。

高橋 そうです。治療とは関係ない話を延々と続けられる患者さんや、言いたいことをなかなか伝えられない患者さんと接する中で、コミュニケーションを円滑にする必要があると感じたことです。例えば「具合が悪い。よくわからないけれど白くて丸い薬を飲んでいいます」と言われても、どのような作用をもつ何のための薬かわからないので、医者には何も伝わらないのです。

医療者の輪の中にいた時は気づかなかったこと

阿部 執筆や出版に至る過程で困難はありましたか。

高橋 患者さんと医療者との距離を縮めることも目指したわけですが、執筆中に予想もつかなかった細かな点で苦労しました。例えば表現ですが、「医師」ではなく「医者」と書くように編集者の方から助言をいただきました。「医師」という表現には「師」がつくから、上から目線のような印象を与えてしまうと。

阿部 そういった理由で、本の中では「医師」「看護師」ではなく「医者」「ナース」と書かれているのですね。

高橋 そうです。また、医療者は「患者さんの訴え」という表現をします。でも、そのような書き方では医療者が「下々の者を見ている」印象を与えてしまう、とも指摘されました。したがって、本の中に「訴え」という言葉は使っていません。もし、医療関係者を読者として想定した出版社であれば、「師」も「訴え」も、全く問題なく使用できます。しかしこれは、医療者が無意識のうちに患者さんに使っている言葉です。医療者以外の方がそのような言葉にどのような印象をもつことがあるかを知る良いきっかけになりました。

医師が、医療者「外」の視点から本を書くこと

阿部 本の中に書かれている内容は、医療者にとっては普段無意識に考えている当たり前のことですが、患者さんにとっては新鮮でとても有意義な内容です。これができたのは、単に高橋さんご自身が患者さんとのコミュニケーションで困っておられることだけでなく、患者さんの視点から、困っていることやあったら良いなと思うことを書かれているからだと思います。しかしこれは、長く治療をする側として医療に関わってきた高橋さんからすれば、簡単ではことではなかったのではと思います。このような視点の切り替えは、どのようにしてできたのですか。

高橋 医療を、医療者の見方とは別の視点で書くことは難しかったです。しかし松下政経塾で一度臨床を離れ、色々な人とディスカッションやプレゼンテーションをする中で、医療を客観的に見つめ直したり、どのようにしたら一般の方々に医療についてわかっていただけるかを考える経験があったことが大きかったように思います。また、編集者の方から指摘されて気づくことも多かったです。まさに「臨床+α」ですね。

阿部 どういった方に読んでほしいと考えておられますか。

高橋 読み手として意識しているのは、中高年の女性です。こういった方々は、ご自身や親御さんの体調に不安がある一方で、若い方々とは違ってインターネットを駆使して病気の検索をすることが比較的難しいのです。このような方に、どのように書けば理解していただけるかに留意して書きました。

執筆ウラ話 〜「カエル先生」と動物のキャラクター〜

阿部 ところで、なぜ高橋さんの愛称は「カエル先生」なのですか。

高橋イラストレーターの方が、私がカエルに似ているという理由でカエルのキャラクターのイラストを描いてくれたのです。それは良いのですが、私は本の中で「患者さんの話を良く聞く」ことを書いているにもかかわらず、カエルに「耳」はないんですよね(笑)他の登場人物はクマとタヌキです。

阿部 人間ではないところがいい味を出しています。

高橋 人間で描かれると生々しいですからね(笑)

阿部 そうですね(笑)イラストがあることで、内容が頭に入りやすいです。

高橋 カエルには「元気になって病院からカエル」、「医療制度を学んで払い過ぎた医療費がカエル」、「相互不信でぎくしゃくした医療現場をカエル」という意味もあります。後から考えた話ですが(笑)

2/2へ続く