高橋宏和氏 プロフィール

所属
 松戸神経内科/JCHO東京高輪病院 神経内科医

略歴
 千葉県生まれ
 1999年 千葉大学医学部卒業。神経内科入局
 2000年 成田赤十字病院
 2001年 下都賀総合病院
 2002年 松戸市立病院
 2004年 千葉大学大学院入学。重症筋無力症の臨床研究に従事
 2008年 医学博士取得。財団法人 松下政経塾入塾。地域医療のフィールドワーク等
 2011年 松下政経塾卒塾。松戸神経内科、JCHO東京高輪病院

著書
 『3分診療時代の長生きできる受診のコツ45』世界文化社 2015年
 『松下政経塾講義ベストセレクション地方自治編』(共著)国政情報センター 2010年

・ウェブサイト
http://hirokatz.hateblo.jp/
http://www.takahashi-hirokatsu.com/

「3分診療時代の長生きできる受診のコツ45」(世界文化社)が話題を集めている、神経内科専門医の「カエル先生」こと高橋宏和氏へのインタビューを行いました。

11月末に世界文化社より「3分診療時代の長生きできる受診のコツ45」という本を出しました。この本では、はじめて病院にかかるときにスムーズに受診できるたくさんのコツや、自覚症状から自分の病気がどんなものか診断していくヒントなどいろんな角度から医療とつきあうコツを書いています。たとえば診察室に入ってから混乱しないように前もって時系列に沿ってメモを作っていくことや、スマホを活用して自分の症状を主治医にうまく伝えるアイディアを盛り込みました。(高橋氏)


国民の医療リテラシーを高くするための「教科書」を作りたい

阿部 本を執筆されることになったきっかけを教えてください。

高橋 以前から、医療者と患者さんのコミュニケーションの問題を扱いたいと思っていました。医者として診察室の中にいると、患者さんが自分の症状をうまく伝えられないことや、患者さんが重要だと思っていることと医療者が重要だと思っていることが全然違うということを感じることが多かったからです。そのような中で、2008年に松下政経塾に入って色々な人と話をし、国民の医療リテラシーを高くしていくことの大切さに改めて気づきました。

国民の医療リテラシーを高めて限られた医療資源を有効に使わなれば、医療現場も疲弊してしまいます。2008年に一瞬、政治の世界でも学校で医療リテラシーを高める授業をしようという動きが出たことがありました。でも結局それは立ち切れになってしまいました。そのころ医者仲間の間で、「それなら皆で医療リテラシーの教科書のようなものを作りたいね」という話をしていました。そのようなベースがあった上で、2014 年の暮れくらいから出版社の方に相談し、その後約1年かけて執筆を完成させたという流れです。

阿部 患者さんと医療者のコミュニケーションをより良くすると、具体的にどういう効果が出るとお考えですか。

高橋 コンビニ受診や本来は不必要な受診といった無駄な受診行動が減るのではと考えます。患者さん側から医療を親しみやすいものにできればという気持ちで書きました。

医療の限界や曖昧さを患者さんに伝える

高橋 医療現場と医療政策の問題点は二つあると考えます。一つ目は今も起こっていますが、これからさらに加速するマンパワー不足で、医師や看護師などの医療者が足りなくなるという問題です。もう一つは医療費の問題です。 後者は高額医療や分子標的薬などが大きなウエイトを占め、すぐに解決できないことが多いです。しかし、前者であればコミュニケーションによって緩和できるのではと思います。不必要な受診や過剰なクレームは疑心暗鬼から生じることもあり、医療者の疲弊につながります。一方で医療にも限界があり、「絶対にこうだ」と言い切れない部分もあります。それは医療者個人の能力がないのではなく、現在の医療やその時点の診察では解決できないものであり、患者さんに「わからないものなのですよ」と伝えることが大切だと思います。また、そうであっても、わからないことに対して考えながらプロセスを進めていくのが医療です。このような医療の限界や医療の曖昧さを患者さんにわかってもらい、上手に病院を使ってもらうことで、マンパワー不足を緩和できるのではと思います。

阿部 医療を適切に進めるためには患者さんの理解と参加が必要ですね。もし患者さんが受けている医療に納得できなければ、本当は患者さんにとって望ましい医療が行われているとしても、患者さんからの協力が得られなくて治療効果が出ないこともあると思います。逆に、患者さんが本当は望まないゴールを目指す医療や倫理的に問題のある不適切な医療が進んでしまうかもしれませんね。

高橋 一般の競争原理からすると、不適切なことをしている病院は淘汰し改善されると考えられがちですが、医療の場合は全然淘汰されません。それは、患者さんの動きが流動的ではないからです。地理的な要因もありますが、患者さん側からすれば「一度その病院にかかったら病院を変えるなんて悪いから言えない」とか、「病院を変えたら痛い目に合うのではないか」という思いがあります。そういった中で、もし医者が合わなければ違うところに行っても良いし、病院を変えたとしても患者さんが心配しているほど前の病院がデータを渡さないということもない、ということを伝えたかったわけです。

阿部 私の周囲の人からも、病院を変えることに遠慮してしまうとか、医者や病院を変えるとちゃんと診てもらえないのではないだろうかという声を聴くことがあります。

高橋 患者さんの身になれば自分の身体が一番なので、主治医が気を悪くしたとしても気にしなくて良いと思います。医者によって、セカンドオピニオンや病院を変えることを良く思わない人がいたとしても、そうした医者の態度を変えることは難しいので患者さん側から変わってもらうきっかけになればと思います。