ぎんぎんぎらぎら 夕日が沈む
ぎんぎんぎらぎら 日が沈む

 画面の中では、居酒屋「山」の大将夫婦が店のカウンターで歌い、大将がラグビーボールを投げた。
 
ぎんぎんぎらぎら 夕日が沈む
ぎんぎんぎらぎら 日が沈む

 病床の洋子が受け取り、同級生のスミちゃんと手をつないで歌う。洋子が投げる。ボールは次々にパスされて、歌のリレーが続く。

 小佐々と太田と片山が院長室で笑顔。出口市長と取り巻きは市役所で、棒立ちのまま、

まっかっかっか 空の雲
みんなのお顔も まっかっか
ぎんぎんぎらぎら 日が沈む

 緒方、久保山、井上の部長連中が医局で肩を組み、女傑・長谷とカリスマ・林が、スカイプで、大輔が思案橋で、郷田が中州で、

ぎんぎんぎらぎら 夕日が沈む
ぎんぎんぎらぎら 日が沈む

 看護スタッフや事務スタッフがカヤックを漕ぎながら、医学生たちは田植えをしながら、神ノ島の小学生たちがラグビーボールを追いながら、

まっかっかっか 空の雲
みんなのお顔も まっかっか
ぎんぎんぎらぎら 日が沈む

 馬渡ら医師会の開業医たちが白衣姿で腕組みをし、お婆さんたちはデイケア・さくら丸で踊り、サユリと友達の園児たちが幼稚園で手を振り、近藤と友恵が砂浜を歩きながら……。

「西の果て、西果に、今日も真っ赤な夕日が沈む。そして、明日も陽がまた昇る」
泣かせるテロップが入る。最後に、山田が描いたさくらのアニメキャラが、バイバイと手を振って、にっこり笑った。

 モニターを見終わった皆が拍手する。
「健ちゃん、もっと、しゃべれ!」
 再び話しだそうとするが、もう言葉にならない。
 健が着ているジャージは、さくらからプレゼントされた、胸に桜の花びらの刺繍入り。背番号は9番、スクラムハーフ。フォワードとバックスをつなぐ役目だ。
 学生とこの病院を、市長と小佐々を、友恵と近藤を、西果の街の人々と病院を、そして、自分自身とこの街を……。自分はうまくつなげただろうか。
 背中を伸ばし、顔を上げて、涙をふく。でも、言葉はでない。

 さくらが「先輩!」と、投げる。
『One for All, All for One.』をキャッチする。
「みなさん、本当に……、みなさん、俺は……」
「健ちゃん、がんばった!」
「泣くな!」
「面倒臭がりのヤグラシカー健」
「立派になった」「でも、ノボセモン!」
「さくらちゃんに、2回振られた」「3回でしょ」
 爆笑。
「これからが、勝負ぞ!」「まだまだ、続くぞ!」
 拍手。好き勝手な声が飛ぶ。拍手、笑い、涙。
 やれやれ、もう収拾がつかない。
 健は大きくひとつ息を吸った。力いっぱいに叫んだ。
「みなさん、本当に、ヤグラシカー! でも、本当に、ありがたか〜!」
 海の方から、笛が高らかに鳴り響いたような気がした。
 ノーサイド。

(イラスト:北神 諒)

   ※   ※   ※

 健は毎朝、走るようになった。
 神ノ島を周回する。東側は内海の大村湾に面し、海が湖面のように広がっている。湾の向こうの山から昇る朝日が、その湖面に反射する。西の果ての街だけど、ここには、夕日より朝日の方が似合うんじゃないかと、健は思うようになっていた。
 ピッチを上げる。
 桜の木には、ピンク色のつぼみがふくらんできている。来月から若い奴らがやってくる。息が弾む。汗を拭く。靴音が心地よく神ノ島に響いている。
 前へ、前へ。朝日を浴びながら、走ってゆく。

(完)

本作品中挿入 
童謡 夕日  詞:葛原しげる 曲:室崎琴月
写真収集協力 N.Tomoko, B.Erika, H.Takayuki
校正協力 H.Naomi

その後の友恵と山田は? 健とさくらはマッチする? 電子書籍でスピンオフ短編を読めます

 Cadetto.jp連載小説「フルマッチ」が電子書籍になりました。連載した本編が一気に読めるほか、友恵、山田、さくらのその後を描いたスピンオフ短編「友恵の再会」「山田君のハート・ストーン・クエスト」「サクラとメープルリーフ」も掲載しています。

電子書籍「フルマッチ」
価格:540円(税込)

■Amazonで購入
■日経ストアで購入