【第5章までのあらすじ】日本の最西端・西果(さいか)市の西果中央病院で初期研修医の確保を命じられた内科医、矢倉健は西果中央病院の大PR作戦を展開する。その最中、病院を潰したい市長が仕掛けたシンポジウムでは民間移譲の論が優勢となったが、医療界の重鎮・近藤和仁の提言で、病床再編による生き残りへ舵が切られることとなった。生き残りには初期研修医の確保が必須。健の奮闘の結果がいよいよ出ようとしている。
※第6章第1話はバックナンバーからご覧ください。

 潰れかけた西果中央病院を復活させる第一歩となる研修医獲得。そのマッチングの中間発表は、期待を見事に裏切り、ゼロだった。カネも底を尽き、運にも見放され、タイムアップ。ロスタイムを残すのみという状況だ。

 中間発表の翌日夕方、小佐々はうなだれる健を連れて居酒屋「山」へ入った。中は既に満席。
「なんですか? 老人会ですか」
 20人ほどの好々爺たちが座っている。
 小佐々は人差し指を口にあてて、末席に座る。
 そこに、口ひげを生やしたオールバックの50代にみえる男がバタバタと駆け込んできて、一番前の席に座った。会の始まりのようだ。
 その口ひげが話し出す。
「先生方、小佐々院長が困っとるらしい。350万円、西果医師会から中央病院に寄付ということで、よかですか? 若い医者を集めるため、そこの矢倉健先生ががんばっとる。こないだのシンポジウムで、あのハゲ市長をやっつけてくれた。今度は、研修医ば集めて欲しか。医学部に行った先生方のご子息たちもなかなか、西果に戻ってこん。医者になっても戻ってこん。地域の中核の西果中央が活性化したら、息子や娘たちが戻る可能性もでてくる。そう考えたら、医師会から350万円くらい寄付しても、安いもんやろう。健ちゃんば、応援してやりましょう!」
 拍手が鳴った。
 これで、マッチング・ナビ社に300万円を支払い、あと50万円を軍資金にして最後の勧誘ができる。小佐々は胸をなで下ろしたようで、健と握手し、参加者皆に深々と頭を下げた。
「がんばらんばよ」
 祖父と思えるくらいの医師会の先輩たちが、健の肩を優しくたたく。予想外の励ましに、健は立ち上がって、礼をした。
 熱いよ、このじいさんたち。涙をふきながら、酌をして回った。ここのところ、涙腺が緩い。俺も年なのか。

「西果医師会 副理事長 馬渡恭太郎」
 口ひげの男は名刺を渡しながら、健の酌を受ける。
「健ちゃん、田舎はあきらめたら最後よ。すべてが終わる」
 馬渡は、西果の開業医がどんどん減っている現状を嘆く。少子化などの要因は数々あるものの、子弟が医者となっても帰りたがらないのが、その主たる原因らしい。健に返杯し、
「横浜女子の松尾尚子。あれは、俺の姪っ子さ。もう一度、会ってくれんね。なんか、悩んどるみたいよ。あの子が帰れば、俺の息子も帰るかもしれん」
 彼の長男も関東で医大に通っているそうだ。
 5月の見学会で西果中央病院を訪ねてくれた松尾については、貴重な情報を与えてくれた。
 松尾は個人的な事情、たぶん彼氏のことで悩んでいる。詳細はわからないが、彼氏は関東の他の大学の医学部6年生のようだ。それが解決したら(付き合いは続けるが別々のところで研修するとか、別れるとか……)西果に帰ることも考えている。表には出ないが、学生たちの恋愛事情はマッチングに大きく影響している。こればかりは、どうすることもできない。