一番上の行は、北海道。公立函館北病院、募集定員9人、第一希望7人。7が赤字で光る。2行目、北海道海北病院、募集定員20、第一希望3。
 北から順番に病院が並ぶ表を、片山は下にスクロールしてゆく。赤い文字がゼロの病院も目立つ。第一希望者がいない病院だ。
「東北、厳しいですね」
 関東に入ると、12、23、51と赤い数字が大きくなってきた。山田の母校も2桁後半、春川の帝大はさすがの3桁だ。
「やっぱり圧倒的に東京は強いですね」
 片山はマウスを固定し、画面を一定速度でスクロールさせている。北陸は厳しい、東海も強い、近畿も健闘、四国はきつい……。片山のコメントを3人は黙って聞いていた。
 山田はなぜか落ち着きなく、マッシュルーム頭をしきりにかき上げている。
 いよいよ、九州へ入った。
「福岡も、やっぱり勝ち組ですね。郷田先生の玄海総合、すごい。98人! 九州帝大も70。安定ですね。佐賀に入りました。次、いよいよ長崎」
 西海医科大、49人。
 オー。
 地方大学としては、まずまずだろう。大輔、がんばったな。
「西果中央、来ました」
 片山の人差し指はマウスから離れ、ページが止まった。
 画面の一番下に、西果中央病院。募集定員5人。第一希望は……。
「なぜなの? ウソでしょ」
「ゼ…ロ。第一希望、ひとりもいない」

 そこに、小佐々がドアをばたんと開けて入って来た。
「どうだった?」
 誰も答えないので、小佐々はモニターに目をやった。数字が変わるわけもなく、ゼロのままだ。
 「マジ? ウッソー!」
 動転した45歳のオッサンから、友恵の口癖が放たれる。
 さくらと片山は呆然と山田の顔を見ていた。
 あなたは?
「す、すいません、すいません。試験で忙しくて、登録を忘れて」
 山田は激しく頭をかいて謝り、言葉に詰まりながら弁解する。
 中間発表までの学生側の登録は義務ではない。この時期は、ほとんどの大学医学部で1カ月に及ぶ長丁場の卒業試験が行われていて、落ちると卒業延期になるので、学生たちも必死となる。山田もマッチングの登録まで頭が回らず、やっと登録しようとしたが、中間発表の登録期限には間に合わなかったという。
「いいんだよ、いいんだよ。君にプレッシャーをかけてるわけじゃない。どこに希望するかは自由だから」
 そう語る小佐々の顔は明らかにひきつっていた。

 しばらくうつむいていた健が、頭をゆっくりと上げて言った。
「最終発表まで、あと1カ月ある。あきらめるのはまだ早い」
 命がけで演説して病院を救ってくれた洋子、現実的な再生案を与えてくれた近藤のためにも、今度は自分たちが頑張らなければ。
「でも、マッチング最終登録は10月上旬よ。実質、2週間。今さら、頑張るって、何を?」
 さくらが冷たく言い放った。
「病院長のメールとか、市長の手紙とか送りますか?」
 片山の提案に、山田は首をかしげる。そういうのはどこの病院からも来るそうで、県知事からの手紙も珍しくないそうだ。
「それじゃあ、また、イベントやるか? マッチング・ナビ社に頼んで」
 小佐々が山田の顔をのぞき込むが、片山が右手の親指と人差し指で丸を作り、
「何をやるにしても、もう、これがないですよ。東京の面接の300万円もまだ払ってないし」
 う〜ん。
 健とさくらは腕組みして天を仰ぐ。声には出さなかったが……。
 万事休す。ジ・エンドだ。

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