【第2章までのあらすじ】日本の最西端・西果(さいか)市の西果中央病院は医師不足で崩壊寸前。状況改善のために初期研修医の確保を命じられた内科医矢倉健(ヘタレ)は、美人で勝ち気な看護師・紺野さくら、地域研修で赴任した初期研修医・渡部友恵、オタク医学生・山田拓也のアシストを得て、西果中央病院の大PR作戦を始めることになる。
※第3章第4話まではバックナンバーからご覧ください。

 メディカル・マッチング・ナビ(MMN)社九州支社営業課、課長の林田義則は愛想笑いをしながらiPADを開いた。
「ご存知と思いますが、このブログ、医学生部門で3位のアクセスです。すごいですね」
 医学生山田のブログ、『サイカシティー物語』。クリックすると、健が友恵を指導する写真や、友恵がトミさんを診察している写真。居酒屋「山」でさくらとサユリが踊っている、夕日、神の島の砂浜、様々な写真が並ぶ。動画もある。確かに面白い。
「山田君が俺に許可をもらいに来たよ。評判いいみたいだな」
 小佐々はチェックしているようだったが、健は初めて知った。
「ブログの中で、矢倉先生のエコー道場とか、矢倉先生の心電図道場とか、結構評判ですよ。長谷先生の救急セミナーも面白かったです」
 指導内容を詳細にアップしているようだ。コメントも多い。
『健ちゃん先生、立派になって、素敵よ Yママ』
『矢倉先生って、短気そう、おっかない 気弱な女子』
『田舎で研修するのもありか 匿名希望』
『西果って、サイカって読むんだよ。行ってみる?』『遠すぎ。やめとけ!』
 反応は様々なようだが、おおむね好意的な気がする。

「矢倉先生」。林田が切り出す。
「日本一に向けて本気でやってみませんか、私たちがサポートしますよ」
 部下がすかさず資料を並べる。
「マッチングのターゲットは医学生のみです。だから、話は早い」
 約8000人の医学部6年生を約1000の病院が奪い合う。大学病院が約80で、それ以外は市中病院と呼ばれる。市中病院の中には、聖路加病院や沖縄県立中部病院などの有名ブランド研修病院があり、十数倍の倍率を勝ち抜かなければ合格しない。しかし、そんな病院はごく一部だ。
 定員を超える競争がある病院は、1000病院のうち100病院前後。つまり、フルマッチするのは1〜2割程度で、残りの8〜9割の病院は定員に達しないのだ。特に地方は散々だ。この多数の負け組病院の中で、いかに突出して目立つかが最初の勝負になる。

「私どもの『マッチング・ナビ』のアクセスは月になんと10万件。業界で3本の指に入る医学生リクルートサイトです。今、上り調子の会社です」
 つまり、広告を出したら?という提案らしい。
「いくら」
 小佐々が単刀直入に聞く。
「スタンダ―ドで月に10万円、スペシャルコンテンツで月20万円、トップページにバナー広告を入れると月30万円です。さらに、特集を組むと月100万円」  
 林田はホームページをクリックして、いろいろな病院の宣伝を見せてくれた。病院長のコメント、指導医のコメント、研修医のコメントなどの 記事と写真が載っていた。
「これで、月に10万、20万かあ」
 小佐々は皮肉たっぷりに言うが、そんな反応は慣れっこのようだ。
「先生の病院に研修医に来て頂くことに私どもが何かお手伝いできないか。地域医療を支えるお手伝いが何かできないか。社会のために何かできないか。そんなご相談をさせて下さい。地域医療を支えるには医者集めです。医者を集めることはやはり競争ですので、いろんな手立てがあると思います」
 手立てか。健もこれまで、大学の前でビラを配り、バスツアーによる見学会を開き、ホームページも作った。西果高校に頼んで過去6年間の医学部進学者に病院のパンフレットを送ってもらったりもした。
「なかなかやりますね、矢倉先生。さすが、日本一を目指している」
 客が本気なら、こっちもプロとして本気をだそう。林田は部下と目配せして、アタッシュケースの中から仰々しく書類を出す。
 名簿。エクセルの表に名前のリストの束があった。名前、大学、学年、メールアドレス、志望科などが入っていた。
「これを買えということ?」
「これは売れません。個人情報ですから。うちのサイトに登録してもらった大事な医学生会員様です」
「医学生様…ね」