【第2章までのあらすじ】日本の最西端・西果(さいか)市の西果中央病院は医師不足で崩壊寸前。状況改善のために初期研修医の確保を命じられた内科医矢倉健(ヘタレ)は、美人で勝ち気な看護師・紺野さくら、地域研修で赴任した初期研修医・渡部友恵、オタク医学生・山田拓也のアシストを得て、西果中央病院の大PR作戦を始めることになる。
※第2章までの各話はバックナンバーからご覧ください。

 雨男。そう呼ばれる健の悪い予感は的中した。
 毎年4月から8月頃まで、医学生を対象とした見学会が全国の病院で行われる。もちろん、秋に控えた初期研修のマッチングに向けたもので、人気のない病院の中には医学生の囲い込みにまでつなげようとするところもある。
 西果(サイカ)中央病院にとって、2012年の見学会第1弾は「西果中央病院見学&カヤック体験バスツアー」。迎えた当日だが、今にも雨がふりだしそうだ。北から吹く強い風に乗り黄砂が街全体をおおい、午後からは雨が降るという予報。いずれにしろ波は高くカヤックは無理であろう。
「まあ、日頃の行いの悪い人がいるからね〜。しょうがないわよ」
 さくらは皮肉混じりにそう言ったが、西果中央病院で見学中の医学生・山田拓也と総務課職員は諦めきれない顔をしていた。バスで学生を乗せるため待機している博多班、久留米班、西海医大班からそれぞれ連絡が入って来た。「博多班、1名女子学生乗車」「久留米班、1名」「医大班、2名」
 えっ、30人の応募があって、たった4人? なぜ?
 山田と総務課若手がつくった研修医募集のホームページは、フェースブックやツイッターを駆使し、医学生のあらゆるネットワークで宣伝し、日に1000アクセスを超える快挙を成し遂げた。病院見学の事前登録者も奇跡の30人!と歓喜していたが、ふたを開ければ、来たのは4人。皆がっくりと肩を落とし、小会議室のパイプ椅子に座りこむ。
 そこに入って来た初期研修医の渡辺友恵は、報告を聞いても動じず、明るく笑っている。
「そんなもんですよ。学生は気分で動くし。今日はカヤックに乗れないなら、や〜めた。じゃあ、映画でも見に行こうかって。でも、この無名のオンボロ病院に4人も見学に来るというのはある意味、ヤバイですよ。マジ、ヤバイ。それに、この人たちは遊び目的じゃないし」
 ヤバイという意味は……、まあ、どっちでもいい。健は思いなおした。30人来て0マッチより、4人来てひとりマッチして、西果の研修医になってくれればいいか。
 雨が降って来た。面々は窓から見える神ノ島の砂浜が濡れてゆくのを静かに見守った。

 学生の到着は昼前。20人乗りのバスにぽつんと乗ってきた学生がひとり下りると、『医学生の皆さん、ようこそ西果中央病院へ!』。横断幕を持つ十数人の職員が拍手のお出迎えだ。医学生は一様に驚き、戸惑い、なんか騙されているんじゃないか?という表情になる。
「やりすぎでしょう」
 苦笑いする友恵に対し、
「やりすぎぐらいがいいと思います。目立たないとダメでしょう」
 山田はその様子をブログにアップしながら、顔に似合わない大胆なことを言っていた。山田のブログのアクセスも、最近はすごいらしい。
 カヤックに釣りにバーベキュー。当初の計画はすべておじゃんにして、
「やっぱり実習させるのが一番ですよ」
 友恵の言葉に従い、自己紹介もそこそこに、健は4人を振り分けた。内科、外科に1名ずつ。小児科に2名。
 今日は休日だが、患者はどんどん来ている。特にゴールデンウイークは開業医が休診なので、ここに集中する。おそらく今日だけでウォークイン患者が70〜100人は来る。その診察を見学すれば学生が暇をもてあそぶことはない。実際の医療の現場を知ってもらうことが研修医確保の一番の早道かもしれない……と健は思った。

 開始して1時間もたたないうちに健のPHSが鳴る。内科の当番である消化器内科部長の久保山が怒っていた。
「健ちゃん、学生を引き取ってくれ! 邪魔だ」