目の前の山田をゲットしないと病院は地獄化するかもしれない。
 大学は医者を引き上げたがっている。西果中央病院の内科12人のうち、消化器内科2人と呼吸器内科1人はこの秋にでも引き上げるかもしれないという噂がある。そうすると、月4回の健の当直が8回、下手すると10回になるかもしれない。おまけに今でさえ20人以上でいっぱいいっぱいの担当入院患者も確実に増える。
「これ以上は無理、無理、無理。絶対、ムリです」
 最近の健の口癖だ。しかし、一番若いというだけで、当直のドタキャンの穴埋めもやらされるし、小児科外来まで手伝わされるようになった。おまけに、この研修医集めの仕事も。もう、この2カ月、まともな休みがない。
 俺は聖人君子でも、赤ひげでも、ブラックジャックでも、ドクターコトーでもドクターXでもない。俺は、単なるフツーの勤務医。だから無理!
 健のぼやきに、さくらならこう付け加えるだろう。
「フツーにちょっとスケベな、へたれドクターK」
 そう揶揄されても、健は正直に思う。これ以上は……、想像するだけで、地獄化。ヘルカ。頭の中で図にしてみる。
 
〈西果中央病院のヘルカ〉
大学は、研修医のいない病院からは医師を引き揚げる方針

3年連続、研修医が西果に来ない

引き揚げが現実になり、西果中央病院の医師数が減る

1人の医師の負担が増える。自前で医師を集める余裕はないし、業務改善も無理

きつくなって、さらに医師や看護師が辞める

診療の質が下がり、患者からのクレームや医療ミスが多発する

患者から見放される

病院の経営が破綻する

 負のスパイラルはもう始まっている。それを止めるために病院長としては若い45歳の小佐々が踏ん張っている。しかし、その小佐々はさらに先まで危惧している。


病院が廃院となる

若い人が住まなくなる

街が滅びる

 小佐々は言う。
「街が滅びるくらいじゃ済まないさ。西果は隣の国からすぐ近く。飛行機なら30分弱だ。西果がいつのまにか、他の国になっているぜ……」
「そんなバカな」
 と言ってはみたものの、一度始まった負の連鎖を簡単に止めることなどできないと、健もこの場に来て感じ始めている。小佐々の描く最悪の未来は山田のゲームと同じだ。
「今なら、俺は、まだ東京へ逃げられるか……」

※「フルマッチ」は毎週月曜に掲載します。