【前回までのあらすじ】

 江戸大学病院の初期研修医1年目、ディーゴとジョージ、レイカ。6月から消化器外科での研修が始まり、分子標的薬治療の患者を担当することになった。同日に入院した2人の患者の血液検査結果がなかなか改善しないことに悩む3人。飲み会で消化器外科の医師たちの噂を耳にした翌朝病室に向かうと、突然、大音量の心電図モニターアラーム音が鳴り響いた。



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「昨日ご相談した2人ですけど、今日さらに電解質の数値が悪くなってしまいました。これが検査結果です。しかも、さっきから心電図モニターのアラームが鳴りっぱなしで……。海野さんは期外収縮が頻発していて、高井さんは徐脈のアラームが鳴るんです。モニターはこちらです」
 病室にやってきた宮沢に説明しながら、僕は2人のベッドサイドにあるモニター心電図を指さした。アラームは、相変わらず鳴り続けている。
「ん? こっちが海野さんで、こっちが高井さん? 十二誘導心電図を見せてくれ」
 今、検査したばかりの心電図2枚を宮沢に渡す。それを遮るように、ジョージが発言した。
「確認は後だ!今やるべきことは治療でしょ。電解質異常が数字ではっきり出ているんだ。入院後どんどん悪化してる。1分1秒を争います。正確な病態把握よりも、今やるべき治療が優先されることがある。治療を開始します!」
 そう言うと、高井さんの点滴のスピードをMAXにした。右手には、グルコン酸カルシウム入りの注射器、左手にはインスリン入りのグルコースを握りしめている。

(イラスト:司馬サヤカ)

「ジョージ、止めろ! その点滴ストップだ。死ぬぞ!」
 宮沢がジョージに駆け寄り、いま早めたばかりの点滴を止める。点滴は、カリウム製剤で黄色く染まっている。
「何をするんですか!? 電解質異常で不整脈も出ている人に何もしないことがどれだけリスクか、循環器の先生なら分かるでしょう」
 先輩医師をキッと睨みつける研修医。宮沢は気にする素振りもなく、緊急処置台から注射器を取り出すと高井さんの右の大腿動脈から血液を採取して僕に渡した。
「これを救急外来の血液ガス・電解質分析装置で検査して来てくれ。検査室ではなく、救急外来だぞ。そして検査結果をすぐに持って来て。さあ、急いで!」
 僕は、動脈血の入った2.5mLのシリンジを持ち、救急外来へ全速力で走った。

 次に宮沢は、ジョージが持っているグルコン酸カルシウム入りの注射器を取り上げ、躊躇することなく高井さんに注射した。
「先輩、何してるんですか! そっちは高井さんです、高カリウム血症なのは海野さん!」
「まあまあ、落ち着けジョージ」
 そう言いながら、今度は生食500mlに塩化カリウム2アンプルを混入した点滴を作っている。既に全く同じものが高井さんにつながっているが、宮沢本人がたったいまそれを止めたはずだ。
 その後、また2.5mLのシリンジを取り出し、今度は海野さんのベッドに近づいた。