【前回までのあらすじ】

 江戸大学病院の医師、ディーゴとジョージ、レイカは、4月に循環器内科で初期臨床研修をスタートさせたばかりの1年目医師。次々に巻き起こる事件を医局という閉鎖空間で解決するために知恵を集結させる研修医達。イケメンで頭脳明晰なジョージ、医師ネットワークサービスを提供する会社の社長令嬢レイカ、江戸大学のスピーカーの異名を持つ宮沢、そして学生時代は医学生とエンジニアの二足のわらじを履いていたディーゴが力を合わせ、医師限定の遠隔相談サービスアプリ「ディーゴ」を完成させた。
 様々なヒントを駆使し、2カ月間の循環器内科で2つの事件を無事解決したディーゴたち。6月からは、消化器外科での研修が始まった。
 江戸大学病院消化器外科の特徴は分子標的薬とカンファレンスだ。消化器外科の石井教授は外科医でありながら内視鏡のスペシャリストで、細田先生は情報システム管理室室長の肩書も持つなど、特徴的な医師も多い。研修初日は細田先生に院内を案内されながら電子カルテについて説明を受けたディーゴたち。検体検査室に差し掛かったとき、見慣れた顔に再会する。



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「おうディーゴ達! 外科はどうだ?」
 宮沢は、検体検査室のパソコンで作業をしていた手を止めて振り返り、いつものテンションで話しかけてきた。すると、細田先生が珍しく口調を荒げた。
「なんで宮沢先生がこのパソコンに触ってるんだ? それは検査室のマスターパソコンだぞ!」
 なぜ細田先生が怒っているのか分からないといった様子でキョトンとしている宮沢を押しのけ、細田先生がマスターパソコンとやらに座った。明らかにいつもと様子が違う。普段は落ち着いていても、想定外のことが起こるとパニックになるタイプなのだろうか。

 しばらくパソコンを触っていた細田先生は、一段と声を荒げた。
「技師長! 検査技師長はどこだ!」
「はい!」
 白衣を着た初老の男が奥から出て来た。検査技師長の上村さんだ。
「検体検査室IDはランダム化されてないじゃないか。電子カルテIDの頭にaを付けただけでは簡単に検体検査IDが予想されてしまい、芋づる式に情報が盗まれてしまうじゃないか!」
「はい…。移行時にシステム担当者が長期休暇を取っていたため、対応が遅れていまして…」
 うなだれる上村さんに、細田先生はさらに追い打ちを掛ける。
「システム担当者に聞くまでもないことだよ。検査室のIDを発行するときは、このランダムID発行アプリを使えと言っただろ!」
 デスクトップを指さしながら目を吊り上げる。いつもの穏やかな細田先生からは程遠い。それを尻目に、ソロリソロリと立ち去ろうとする宮沢。しかし、細田先生は見逃さなかった。

(イラスト:司馬サヤカ)

「宮沢先生!」
「はい!」
 蛇に睨まれたカエルのように、直立する宮沢。
「宮沢先生はいったい何をしていたのですか?」
 少し落ち着いたのか、細田先生の口調が少し柔らかくなった。
「来週、循環器に入院する予定の患者さんの検査データを見ていました。他院の検査データが一番早く取り込まれるのは、あのパソコンなので…」
「確かに、検査室のマスターデータだから一番早いでしょうね。でも管理者権限がある人しかログインできないはずだ」
 直立不動の姿勢のまま、宮沢が答える。
「いつもそのまま入れますが…」
「技師長! 検査技師長はどこだ!」
 宮沢の一言が、再び細田先生を噴火させたようだ。怒鳴りながら検査室の奥の部屋に向かう細田先生。視線が外れたのを確認した宮沢は、その隙にと素早く部屋を出て行った。

 その後、10分程奥の部屋で怒鳴り声が響き渡ると、スッキリした顔で細田先生が1人出て来た。いつものビジネスライクな笑顔が戻っている。
「こうやって1つひとつ改善していくしかないですね」
 医師のメインストリームは研究や臨床に従事することだが、電子カルテやセキュリティー対策に情熱を注ぐ医師もいる。学生時代は気が付かなかったが、医師としての生き方も多様化しているのだなあとつくづく思った。

「それでは明日以降についての業務連絡です。予定入院の患者さんが2人いますので、先輩たちと一緒に、その患者さんたちを受け持ってください。電子カルテでしっかり情報を収集しておいてくださいね」
 こうして、消化器外科での研修1日目が終了した。

※「DDDDD〜ディーゴ〜」は毎週月曜に掲載します。