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 翌日5月13日の朝、僕たち研修医3人は病室に向かっていた。
「もう何ともないよ。昨日、私気を失ってたの? そんなの初めてだよ。緊張しすぎたのかなぁ、情けないね。ごめんね」
 ベッドの上には、昨日の急変が嘘のように、笑顔を見せる老人がいた。レイカも少しホッとしたようだ。しばらく和やかに世間話をしていると、昨日も大活躍だった看護師の角野さんが来た。点滴を交換しに来たようだ。

 その時、隣から「ううっ」と、うめき声が聞こえた。2人部屋のもう一方のベッドを見ると、患者さんが胸を押さえて苦悶の表情を浮かべている。不安定狭心症疑いで昨夜緊急入院になった松本さんだ。最初は水曜日の救急外来で対応したが、自宅に帰った後も頻回に胸部症状があるとのことで緊急入院になったのだった。今日の午後から準緊急で心臓カテーテルをする予定になっている。
「ううっ。胸が…痛い。今までで一番ひどい!」
 松本さんの表情を見る限り、ただごとではなさそうだ。3人でベッドサイドに駆け寄った。
「狭心症発作、いや急性心筋梗塞かも。おれは硝酸薬を取ってくるから、レイカは12誘導心電図を持ってきて。ディーゴはベッドサイドでバイタルサインのチェックと診察。角野さんは、医師や看護師を集めてください!」
 ジョージは指示すると部屋を飛び出していった。続いてレイカも、心電図を取りに向かった。

(イラスト:司馬サヤカ)

 僕が聴診を始めたとき、まだ隣に突っ立っている人がいることに気が付いた。角野さんだ。彼女は、ガクガク震えながら立ち尽くしている。
「角野さん、みんなを呼んできてください」
 改めてそう言っても、角野さんは動かない。いや、動けないようだ。
 僕はナースコールを押し、状況を伝えて人を集めてもらう。そして、院内PHSで宮沢に連絡した。

 宮沢はすぐに駆けつけてくれた。心電図はV1〜V3のSTが上昇している。ニトロペンでも症状が変わらない。
「これは急性心筋梗塞だな。しかも前壁広範だ。急いでカテーテル室に向かおう。抗血小板薬2剤は既に内服しているのか、すぐに確認して!」
 角野さんの方を見ながら指示する。だが、角野さんは動かない。結局、近くにいた看護師の鈴木さんが引き継ぎ確認に走った。急いでストレッチャーに移乗させてカテーテル室に患者さんを運んで行った。
 緊急カテーテルを行い、造影してみると、宮沢の診断通り左前下行枝の閉塞。そのままステントを留置し、無事に治療できた。病棟での発症ということでかなりスムーズに連携が取れ、迅速に対応する事ができた。