5月10日火曜日。僕、ジョージ、レイカの3人が、CVカテーテルの手技をカンファレンス室で勉強していると、宮沢がやってきた。
「おっす、勉強したか?」
 宮沢は、今日も相変わらずノリが軽い。
「誰にやらせてあげよっかな。一番勉強してきた人にやらせよう。と言っても、最初は局所麻酔と試験穿刺までだけどね」
 試験穿刺とは、局所麻酔をしながら細い注射針で静脈の位置を探すことだ。試験穿刺で血管の走行を把握した後に、実際にはガイドワイヤーが入る少し太い針で穿刺する。最近は、エコーガイド下穿刺と言って超音波エコーで血管を見ながら穿刺することが多く、試験穿刺は必ずしも必要ではないという意見もある。今回は、初期研修医の練習という意味合いもあり、試験穿刺までやらせてくれるのだろう。

「じゃあ、CVカテーテル挿入の手技で起こり得る合併症を1つずつ順番に答えていって、一番多く答えられた人にやらせてあげよう。穿刺部位は内頸、鎖骨下、大腿、どの合併症でもいいよ。ディーゴからどうぞ」
 実は、僕は昨夜遅くまでCVカテーテルについて調べていた。ただし、勉強していたのは手技のことばかり。合併症に関することもページの端に記載されていたが、あまり読んでいない。とりあえず、分かる範囲で答えるしかない。
「き、気胸!」
 宮沢先輩がうなずく。続いて、ジョージの番だ。
「感染症」
「出血、皮下血腫」
 間髪入れずに2人が答えたことで、また僕の順番が回ってきた。僕は学生時代から口頭試問が苦手だ。筆記テストでさえ心臓がバクバクして冷静にしているのが大変なのだが、口頭試問になると頭が真っ白になってしまう。
「あ、わ、分かりません」
 早くもドロップアウトしてしまった。
「おいおいディーゴ、気胸しか知らないの? 学生からやり直せ。はい、次」
 珍しく宮沢の目が笑っていない。次に答えるジョージをギロリと見るが、すまし顔でジョージが答える。
「血管損傷、動静脈瘻」
 研修医室で一緒に勉強していたが、完全に実力差を見せつけられた感じだ。

 続いてレイカの番だが、どうやら彼女もピンチのようだ。自信なさそうに答える。
「不整脈…。ガイドワイヤーが深く入りすぎた時とかに…」
 宮沢は「うんうん、正解」と大きくうなずく。そして、またジョージの番だ。
「神経損傷」
 少しも悩む様子もなく、ポンポン出てくる。さすが、学生時代から筆記試験だけでなく口頭試問、実技ともにトップクラスだった男だ。レイカの表情が曇る。もう思いつかないようだ。
「もう、分かりません」
「よし、ではジョージに入ってもらおう。ちなみにジョージ、他にも合併症は思いつくかい?」
「空気塞栓、静脈血栓、リンパ管損傷、あと局所麻酔によるアナフィラキシーなどです」
 よどみなく合併症が出てくる同期を見て、自分の不勉強を痛感した日だった。

 こうして、初めてのCVカテーテルには、ジョージが入ることになった。


※「DDDDD〜ディーゴ〜」は毎週月曜に掲載します。