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「Evidence Breaks Malice」
「エビデンスは出そろった。 心臓カテーテル合併症事件の犯人は、あなただ」
 ジョージが青い目を光らせながら、はっきりとこう言った。
「犯人は岸田准教授、あなただったのですね」

(イラスト:持田 大輔)

 周りの人々は何が起こったか理解していない。岸田准教授は突然のことに目を見開く。しかし一息つくと、微笑みをうかべながらカテーテル室内を指し示し、口を開いた。
「君は、寺西くんだったかな。何を言っているんだい? 合併症事件? そもそも今、合併症なんて起こらなかったじゃないか」
 ジョージはひるまず話し続ける。
「はい。昨晩、 気が付いたため、手を打たせてもらいました。3月以降、あなたがここで仕掛けていたトリックにね。6回の合併症を引き起こし、今日この『5病院合同心臓カテーテルライブ』という最高の舞台で、あなたは7回目の罪を犯す予定だった」
 周囲のザワつく声が大きくなる。研修医が突然、准教授を追求し始めたのだから当然だ。
 ジョージの切り込みに、岸田准教授はまだ余裕の笑みを浮かべながらこう切り返す。
「6回の合併症というのは、最近続いていたカテーテル中の合併症のことかい? それならば私は関係ないよ。君だって知っているだろう。手技を行ったのは金子教授だし、私はどの回もカテーテル室にはいなかった。調べてもらえばすぐに分かることだよ」
「はい、当初は予想もしていませんでした。カテーテル室の外にいながら、カテーテル中に次々と合併症を起こすなんて普通に考えたら不可能です。しかし、3月以降の金子教授のカテーテルの全データを集めて、ある法則に気づいたのです。緊急でもなく、石灰化もないシンプルな病変の症例で合併症が続いていることに」
 いつしか、岸田准教授の顔から余裕が消え、引きつった笑顔になっている。小刻みに震える右足。 雰囲気に飲まれ、僕も足が震えている。ジョージは、さらに続ける。
「つまり、合併症が起こった症例は全て術前精査の時点で、治療戦略の予想がほぼついていたということです。6例の合併症の真実、それはステントへの細工です!」
 そう言うとジョージは、手に持っている薄く四角い箱を頭上に掲げた。 今日のカテーテル室内でも使用されたステント、「Agari 2.5×18mm」が入った箱だ。
 そのステントの箱を見た瞬間、岸田准教授の顔から笑みが完全に消えた。そして、ジョージをキッと睨みつけながらこう言った。
「君は学生に毛の生えた程度の初期研修医1年目だから、まだ何も分かっていないようだが、ステントに細工なんて不可能だ。厳重に管理されているし、そもそも少しでも不良品だったら製造過程や最終チェックでハジかれるんだ。不良品や細工されたものが医療現場に出回ることは絶対にない」

 しかし、そう言ってからすぐに自分の発言の矛盾に気づいたのか、目を見開いた。おそらくあの時のことを思い出したのだろう。

(イラスト:持田 大輔)

「その通りです。しかし、あなたはその不良品ステントのコレクターだ。箱は正規品と全く同じ。その不良品ステントを、その日に使用するカテーテル室の棚ストックとすり替えた。 通常はどのステントを使うのかが分からないとすり替えようがないですが、30年間金子教授と一緒に仕事をしてきた岸田准教授、あなたなら術前の画像を見ただけで、教授がどのステントを選択するか、手に取るように分かるはずです」
「なぜ私がやったと断言できるんだ。術前の画像は電子カルテで他の人だって見ることができる。私以外にも可能だろう?」
 目はジョージを睨みつけながら、顔全体が大きく左に歪み、右足はさらに大きく震えている。その岸本准教授に対し、ジョージは涼しげな表情のまま続ける。
「はい。ついさっきまでは半信半疑でした。しかし、カテーテル中のあなたを見て確信しました。あなたは、みんなが注目している右冠動脈の難しい病変の治療中は全く興味を示していなかった。にもかかわらず、左前下行枝のシンプルな病変の時には身を乗り出して食い入るように手技を見ていた。そして無事に終わった瞬間に立ち上がり『なぜだ』とつぶやいた。そのような行動、言動を取った理由。それはあなたがステントをすり替えた張本人だからです」
 中年医師を相手に、初期研修医はさらに続ける。
「しかし、先ほどの治療で使われたステントはあなたが昨夜すり替えたものではなかった。我々が再び戻しておいた正規品の『Agari 2.5×18mm』が使われたので、合併症もなく無事に終わったのです」

 それまで、足を小刻みに震わせながらもなんとか感情を抑えていた岸田准教授だったが、ついに爆発した。
「…君の言っていることは単なる妄想に過ぎない。そして私がやったという証拠はない!」