初期研修医生活は2週目に入った。 研修医3人は、みんな眠そうな顔をしている。寝不足なのは僕だけではないようだ。
 朝のカンファレンスがいつものように淡々と進む。注目すべきは、4月19日のカテーテル予定が0件になっていたことだ。火曜日の術者は金子教授。どうやら、合併症が続いていることから、予定を全て他の曜日に変更したようだ。やはり単なる合併症では片付けられない問題になっているのだろう。
「さすがに、もう一度起きたら金子教授は術者を外れるだろうな。場合によっては責任問題になって教授のポジションを失う可能性もある。医療ミスは週刊誌のおいしいネタだから、そろそろマスコミが嗅ぎ付けるかもしれない」
 ジョージが言うことも、あながち見当はずれではなさそうだ。

(イラスト:持田 大輔)

 カンファレンスが終わり、僕たちは各自の進捗状況を報告し合った。
「匿名相談アプリ、プロトタイプは出来上がったよ。今夜仕上がる予定」
「私は早速、父から許可をもらってエンジニアに頼んでいるとこ。ディーゴがアプリを完成させ次第、すぐにメディカルトップに実装できる予定よ」
「ディーゴ、出来上がったらおれに送ってくれ。トップ絵のロゴとかデザインは知り合いに頼んであるから」
 宮沢は昔から何かと首をツッコむのが好きだ。大学の時の応援旗も、僕たち補欠組が作るのが慣例だったが、毎回つまらないオヤジギャグを入れてスベっていた。一抹の不安を抱えながらも、ソフトウェア開発プロジェクトのための共有ウェブサービスを宮沢と共有する。
 ジョージだけは違うアプローチのようだ。
「安易に人に相談するのはダメだ。おれは自分のやり方で調べる。実際にカテーテルのデータをまとめて、医学書や論文に当たってみるよ」
 解決に向けて、それぞれがスタートを切ることになった。
ホッとしたのか、少し安心した声でレイカが呟いた。
「でも、こんなに急ぐ必要あるのかしら? 明日の金子教授のカテーテルは中止になったし、ゆっくりでもいいんじゃない?」
「何言ってんだ。今週の金曜日、何があるのか忘れたのか?」
 僕たちの気分は、宮沢の言葉で現実に引き戻された。

 そう、今週末は『5病院合同心臓カテーテルライブ』――。つまり金子教授がビデオカメラの前でカテーテルを施行する日だ。これまでの合併症の原因が分からないままでは、取り返しがつかないことになりかねない。 僕らは、その日をXデーと呼ぶことにした。

 Xデーまであと4日。

 その日の研修医としての仕事は22時に終了。僕はそのままカンファレンス室でプログラミングを続けた。外が明るくなってきた頃、なんとか完成した。宮沢に連絡して、僕はそのまま眠りについた。