その後は、淡々とカテーテルを抜去し、止血処置をしてベッド移動、病棟帰室と進んだ。宮沢は清潔なガウンを脱いでイスに座り込んでいる。術衣は汗でびしょぬれだ。
「お疲れ様でした。無事に終わって良かったですね」
 僕が声を掛けると、意外な答えが返ってきた。
「無事だって? 全く無事じゃない。失敗だ、大失敗だ! 置いた位置からずれてるし、広がってもいない。術前よりむしろ悪くなっている」
 宮沢は、頭を抱えて下を向きながら続ける。
「なぜだろう。術前の検査もそろっていたし、IVUSで十分観察もした。ステントの選択も完璧だったはずなのに…」
 汗が髪から滴り落ちる。うつむいているので表情が分からないが、口元は笑っているのか? なんとも言えない感じで口角がヒクヒクと震えていた。宮沢は学生時代からそうだった。大事な大会でチームが負けた時も、みんな泣いているのを見ながら笑いだしたりするのだ。少なくとも映画館には一緒に行きたくないタイプの人間だ。


 翌日の土曜日は医師になって初めての週末。もちろん出勤する。これが学生と研修医の決定的な違いだろう。週末フリーの科もあるが、循環器内科は基本的に休みがない。
 夜は、火曜日に白石と約束した飲み会だ。ジョージとレイカと病院正面玄関で待ち合わせ、病院近くの居酒屋「ビート」に向かう。
 今日は、4月中旬にしては肌寒い。研修医3人が18時きっかりに店に到着すると、すぐに白石も到着した。今日は上下ともデニム生地で合わせたデニムオンデニムだ。流行りのコーディネートをばっちり着こなしている。5年前ならダサいと言われるファッションだが、流行の力は恐ろしい。いつにも増してかわいく見える。

 30分程遅れて宮沢が到着した。 その後はビールを片手に、昔話に花を咲かせる。酔いが回ったところで、いよいよ江戸大学病院のスピーカーのスイッチが入る。次々に暴露話が飛び出した。
 一番驚いたのは、金子教授と准教授の岸田先生は大学時代からの大親友で、野球部でバッテリーを組んでいたという話だ。現在の体型からは考えられないが、金子教授がエースピッチャーで、岸田先生がキャッチャーだったという。医師になってからも、2枚看板で江戸大学病院循環器内科を引っ張ってきた2人だったが、5年前に2人が教授選に出馬した頃から大きな溝ができてしまったらしい。教授選後もそれぞれ教授、准教授として一緒に働いているが、それ以来、2人が仕事以外のことを話すところを見た者はいない。

 金子Jr.や佐藤のことも聞いた。 3月までは、金子教授のカテーテルには必ず助手に金子Jr.と初期研修医が入っていた。しかし、合併症があまりにも続いたため、最近は初期研修医ではなく佐藤や宮沢が入ることになったそうだ。ちなみに宮沢曰く、金子教授のカテーテルの腕は「まあまあ」、金子Jr.は「超下手クソ」らしい。

 佐藤は通常時の処置は丁寧で完璧だが、急変時にパニックになって座り込んでしまうのはいつものことらしい。火曜日の心室細動の時も救命処置に加わるでもなく壁の棚を見ながら座っていた。そうなることを知っていた宮沢は、即座に操作室から出て手技に加わったのだという。循環器内科医というと、どんな事態が起きても速やかに対応するというイメージがあるが、人それぞれということか。

 2時間もすると宮沢は完全に泥酔状態だった。下ネタから病院内の恋愛話までペラペラ話す彼を見て、病院中の看護師を敵に回している理由が分かった気がした。

※「DDDDD〜ディーゴ〜」は毎週月曜に掲載します。