岩田健太郎先生の本を読み、感染症診療が急に面白くなった─。こんな若手医師は多いはず。かく言う私もその1人です。新型インフルエンザ対策でも積極的に発言を続けられている岩田先生。神戸大学での近況、感染症対策を担える医師を増やすための提言、これまでのキャリアなど、とてもたくさんのことをお聞きしました。


いわた けんたろう氏○神戸大学大学院医学系研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。1997年島根医科大学卒業。沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院などで研修後、アメリカ、中国で医師として勤務。2004 年から亀田総合病院で感染症内科部長、総合診療感染症科部長を歴任し、08 年より現職。
Photo:Noriyuki Kon

公平 神戸大学の学生たちに系統立った感染症の講義をしている様子を岩田先生のブログで拝見しました。「ああ、こんなポリクリを受けたかったなあ」と、ちょっとうらやましくなりました。

岩田 神戸に来て2 年は本当に忙しくて毎日バタバタでした。学生への教え方を工夫する暇があまりなくて、どちらかというとやっつけ仕事で「一緒に回れ」とやっていたんです。

 3 年目の今年になってようやく、スタッフも増え、ある程度腰を落ち着けて仕事をできるようになったので、もう少しきちんと教えてあげようと心がけています。今はとにかく、「自分の頭で考えるとはどういうことか」を教えることに主軸を置いています。

公平 私たちが卒業したころ、感染症科という概念はなかったような気がするんですが。

岩田 なかったですね。臨床で感染症をやるというコンセプトが日本で一般化したのは、ここ数年のことです。沖縄県立中部病院や聖路加国際病院などの伝統ある病院は例外として、感染症を生業にしている臨床医はほとんどいなかった。

 2004 年に僕が亀田総合病院で感染症科を立ち上げ、そこで後期研修を経験した先生方がいろいろな病院に散り始めています。20 年もすれば、感染症科がない病院の方がまれになると思います。

 というのは、ちょっと考えれば当たり前なんですけど、感染症が存在しない病院はあり得ないんです。内科系であれ外科系であれ。外から来る感染症もあれば、院内の合併症からの感染症もある。

 20〜30 年前ぐらいから、感染防御、つまり手洗いなどの対策は徐々に定着してきました。しかし、治療については全く手つかずと言っていい状態で、「抗菌薬を適当にやって良くなればラッキー」みたいな感じでした。さすがにこのままでは駄目だろうということですね。

 「感染症科を作れるだろうか」と病院長の先生などからよく聞かれますが、そういうレベルの話ではなくて、「いつ作るか」の問題なんです。

「感染症は実在しない」(北大路書房)。「病気は実在しない」という逆説を出発点に、現代医療を読み解く。一般向けには結構難解だが「意外に売れている」(岩田氏)。

ムードに水差す専門医制度
公平 ただ現状では、トップに立つような先生方がまだお若いという感じで、感染症科の普及には、人はまだまだ足りないのではないですか。

岩田 全然足りないです。僕らはアメリカでトレーニングを受けた口ですけど、日本感染症学会の専門医というのは、学会費を何年か払って試験を受け、ケースレポートをいくつか書いたら訓練なしでなれるという非常に甘いコースだったんです。

 2007年から指定病院での3 年の研修が必要になって、ようやく今年、最初の修了者が出たかというところ。つまり、適切な訓練を受けた感染症の専門医というのは日本にはまだほとんどいない。