4月にスタートを切った新専門医制度。各基本領域について、専門研修プログラムの初年度の体制をシリーズで紹介する。


【麻酔科領域】
・2018年度 研修プログラム数:191プログラム(1046施設)
・2018年度 総定員数:971人
・2018年度 採用者数:498人(2018年3月15日時点)

「新制度への切り替えに大きな混乱は生じなかった」と話す日本麻酔科学会専門医研修プログラム検討WG長の大嶽浩司氏。

 麻酔科は他の領域に先取りする形で、2015年から新制度に沿った研修制度を開始していた領域だ。「2年先行して研修制度を切り替えていたことで、大きな混乱はなく、新制度への移行はスムーズに進んだ」。2018年度における麻酔科専門研修プログラムの採用者数は498人(3月15日時点)。「微増だが、例年とさほど変わらない」と日本麻酔科学会専門医研修プログラム検討WG長の大嶽浩司氏(昭和大学病院副院長)は見る。

 日本麻酔科学会は、学会認定の専門医制度の頃から、研修施設に認定要件を課しており、その認定要件を達成していた施設を、新制度における研修プログラムの基幹施設にすることを考えていた。

 新制度で同学会が定めた基幹施設の要件は、麻酔科管理症例が年間1000例以上あり、複数の外科系診療科があること、特殊な麻酔管理を行える環境(小児や妊婦への麻酔や胸部外科手術や脳神経外科手術での麻酔を行う機会が設けられる)があること、常勤の指導医がいること――などだ。

 こうした要件を満たして基幹施設となったのは、大学病院と地域の中核病院だった。しかしその後、1つの県の中に複数のプログラムを作るべきとする意見を受け、「1県2プログラムにするために調整を重ね、なんとか基幹施設を増やし、専攻医の募集までに研修プログラムを昨年から約40程度追加した。しかし、そうして増やした研修プログラムの大半で専攻医が集まらなかった」と大嶽氏は吐露する。

「専攻医の研修環境をより良くするために学会としても取り組んでいきたい」と日本麻酔科学会理事の佐和貞治氏は意気込む。

 「多くの症例を経験できる都市部の病院や大学病院に、専攻医が魅力を感じるのはある程度は仕方がないこと。だからこそ、基幹施設と地域の医療機関との連携機能を強化させることで、適切な指導を行いながら現状の医療提供体制を守る体制作りを考えていた」と日本麻酔科学会理事の佐和貞治氏(京都府立医大病院副院長)も説明する。

 打開策として同学会が設けたのが、2種類の連携施設だ。年間麻酔科管理症例数を500例以上とし、外科系診療科が複数なくても構わない「連携施設A」、症例数の規定を定めず常勤の指導医が1人のみでも施設要件を満たせる「連携施設B」を設け、「専攻医が様々な環境下で多岐にわたる疾患に関する経験を積めるようにしながら、地域医療を維持することを考慮した設備要件を設定した」と大嶽氏は話す。

 手術を行う上で、麻酔科医は不可欠な存在だ。「麻酔科医は医療機関にとって、いわばインフラのようなもの。大学病院などの基幹施設は様々な医療機関に医師を派遣しており、その供給体制が変われば手術が滞る医療機関が出てくる可能性がある。現状の供給体制を崩さないよう、配慮が求められている」(大嶽氏)。同学会は研修プログラムの整備基準で連携施設での研修期間は3カ月未満にならないよう求めるが、研修の質を担保する必要もあるため、指導医の少ない連携施設Bでの研修は原則2年を超えないことも併せて定めている。

フリーランスの麻酔科医をどう活用するか

 研修制度に伴い、専攻医と指導医層が研修施設に所属することを鑑み、「フリーランス麻酔科医をどのように扱っていくのかを改めて考える必要がある」と大嶽氏。医療機関にとって、麻酔科医の確保は手術件数、引いては収益に大きな影響を及ぼす。日中はもちろん、特に夜間は麻酔科医が確保できなければ緊急手術に踏み切れず、患者の受け入れにも影響を来すため、医療機関からの需要が他科の医師と比べても高い傾向にある。「麻酔科医が需要に比べて非常に少なく、地域の中小病院や夜間緊急業務など、すべての需要に応えようとすれば、常勤医が疲弊してしまう。需給バランスが取れていない今の状況で、病院のニーズと医師の働き方を守るには非常勤医師の他、フリーランスと呼ばれる専門医を戦力としてうまく使っていかなければならない」と大嶽氏は指摘する。

 「フリーランスの麻酔科医の働き方に良くない印象を持たれることもあるが、他の診療科で開業医として診療している医師と同じ位置づけとも考えられる。報酬の相場が高いという批判も耳にするが、 次の仕事を得るにはミスが許されないことの裏返しともいえる。加えて、働き方の自由は憲法で認められた個人の権利であり、学会が労働契約に干渉することはできない。その代わりに、知識と技術を常に向上させることを専門医維持の要件とした」と大嶽氏は説明する。なお、学会として把握しているフリーランスの麻酔科医の数はさほど増えていないという。

 こうした背景も考慮し、新制度では「専門医資格取得後の多様な働き方に合わせられるよう、自由度の高い研修体制を構築した」と大嶽氏は言う。基幹施設で長期間研修を積みたい専攻医がいれば、様々な施設を経験してみたい専攻医もいる。「研修プログラム統括責任者が、専攻医の希望と研修の進捗に合わせて適宜コーディネートできるようにした」と大嶽氏は説明する。

研修プログラムの質を評価するシステムも構築中

 専攻医に合わせた研修プログラムを提供する一方で、研修プログラムがどのように行われているのか、研修環境は適切かといった視点で学会がプログラムの研修の質を評価する仕組みの構築も予定しているという。「専攻医の専門医試験合格率などを公表する他、指導状況や設備についても評価し、研修環境をより良くすることを考えている。2018年度から2020年度に一部の研修プログラムで研修の質の評価をモデル事業として行い、2021年度には評価事業に移行する予定」と佐和氏。

 学会による評価システムを作り、その結果を公表することで、「専攻医を単なる労働力として見るのではなく、専門医教育の質を向上させるために努力している施設を評価し、初期研修医の目に留まるようにしたい。さらに、評価結果の公表により、各研修施設の設備の強化を含め、業界全体のボトムアップに寄与できればと考えている」と大嶽氏は展望を語る。

 なお、麻酔科領域のダブルボードへの対応については検討中だという。「既存の麻酔科専門医の中には救急科や緩和医療を主な専門としている医師も多い。そのため、まずはそれらの領域との調整が必要となるだろう」と佐和氏。複数の基本領域の専門医を取得しても、それぞれの更新要件を満たして資格を維持することは簡単ではない。そのため、相互の領域でどのような診療内容を各領域での診療実績とできるのかといった、細かな内容について協議を進めているところだという。