イスの背にかかるのは、アントニオ猪木さん直筆サイン入りの「闘魂マフラータオル」。サイン色紙も大切に保管している。

 卒後15年目頃からずっと心に置いている言葉があります。「得意なところで人の3倍努力して宝物を手に入れろ!」。元は、私が手術を担当した、ある患者さんからいただいた言葉です。

 当時の私は、とにかく患者さんのそばにいたい時期でした。その日も、術後の経過が気がかりで深夜、集中治療室に行くと、社長業をしているという患者さんが「良くやるね。俺も若い頃は頑張ったもんだ」とねぎらいながら、「得意なところは人の3倍やらきゃダメだ。やれば何かが見えてくる」と言ってくれました。その言葉に勇気が湧き、ますますやってやろうという気になりました。

 私は高校の頃からアントニオ猪木さんの大ファンでした。コブラツイストのようなユニークな技が、いつも彼を輝かせていたからです。プロレスはショービジネスだと承知の上で、ときにシナリオから逸脱して真剣勝負に出てくるところも好きでした。

 コブラツイストではありませんが、医師でも他の職種でも、得意分野で突き抜けた実力があった方が、社会に貢献でき、仕事への熱意も高まります。臨床でも教育でも研究でも、どれか一つで良いのです。それが私にとってはoff-pump冠動脈バイパス術となりました。

 私の中で、この言葉とセットになっているのが「一途一心」です。ひたむきに一心不乱に取り組むことでいつも以上の力が出る、という意味を含んでいます。周囲からの評価でなく、自分自身の目標を置くことこそ、見えない何かをつかむスタートラインだと心に刻んでいます。周囲が気になるうちは、人の3倍努力しているとは言えないということですね。(談)

天野 篤
Atsushi Amano
順天堂大学心臓血管外科教授●1983年日大卒。亀田総合病院、新東京病院などを経て、2002年から現職。off-pump冠動脈バイパス術の第一人者として知られ、12年2月には天皇陛下の冠動脈バイパス術を執刀した。
Photo:Yuji Ozeki