若手医師に贈る「2011冬・論文コレクション」。第二弾は感染症領域だ。静岡県立静岡がんセンター感染症内科の倉井華子氏に、「日常診療の疑問に答える」感染症領域の論文をリコメンドしてもらった。


倉井華子
Hanako Kurai
静岡県立静岡がんセンター感染症内科 副医長●2002年富山大学を卒業後、東京都立駒込病院レジデント。05年横浜市立市民病院感染症内科。2010年から現職。
photo:Takanori Hirose

 「ガイドライン通りに進めているけれど、本当にこれで正しいのだろうか」「この患者さん、良くなってはいるけれど、ほかにもっと良い方法があるのでは」…。

 静岡県立静岡がんセンターで感染症内科の副医長を務める倉井華子氏。癌専門医から、担当する患者の感染症治療についてコンサルトされる立場にある。自分自身の疑問も含め、毎日のように新しい疑問にぶつかるという。それらを解決して、患者さんを少しでもよくしたいと、多くの論文を読むようになった。

 そんな倉井氏のお薦めは「日常診療の疑問に答える論文」。今回は特に、日本人が執筆しているものを中心に4本を挙げてもらった。どれも倉井氏自身の行動や考え方を変えるだけのインパクトをもった論文だ。




周到な比較試験で、肺炎球菌ワクチンの効果を確認
 「これを読んで私たちは、肺炎球菌ワクチンを打つ際、『肺炎を予防できるワクチンですよ』と言えるようになりました」。そう言って、倉井氏が真っ先に挙げたのがBMJに掲載されたこの論文5(次ページの「倉井先生のおすすめ論文リスト」参照)。

 日本では肺炎球菌ワクチン接種に対する公費助成が遅れており、特別養護老人ホームなどでは肺炎球菌が肺炎の原因菌のトップであったにもかかわらず、65歳以上のワクチン接種率はわずか3%だった。肺炎球菌ワクチンには重症化を防ぐ効果しか確認されておらず、医師は患者に「肺炎予防の効果はありません」と説明していた。

 この論文では、特別養護老人ホームの入居者1006人を対象に、肺炎球菌ワクチンの効果を、二重盲検ランダム化比較試験により検証。その結果、肺炎球菌ワクチンの肺炎を防ぐ効果を確認できたと報告している(図3)。

 「研究としての完成度も非常に高い。肺炎球菌ワクチンが最近、公費助成の対象になりましたが、この論文の影響もあるのではないでしょうか。著者の丸山貴也先生は自治医大卒の臨床医の先生ですが、現場にいながら、このような完成度の高い研究ができるということに感嘆し、勇気づけられた1本でもあります」(倉井氏)。

図3 肺炎球菌性肺炎を起こさなかった症例の累積頻度
ワクチン群では肺炎球菌性肺炎に対する抑制効果が認められた。
(論文5) BMJ 2010;340:c1004.より改編引用

図3 肺炎球菌性肺炎を起こさなかった症例の累積頻度