患者に納得して治療を受けてもらうために重要な病状説明。だが一方で、訴訟のリスクも気になるところだ。弁護士で医師の水澤亜紀子氏に最近の医療訴訟における病状説明の位置付けについて聞いた。


水澤亜紀子氏
Akiko Mizusawa
弁護士・医師(新伝馬法律事務所)●1989年東北大医学部卒。総合病院内科勤務を経て、99年弁護士登録。医療者側に立った弁護活動を行っている。

 「昔の医療訴訟は、手術や投薬などの医療行為を過失として訴えるものが主でしたが、この10年ほどは、それらと説明義務違反をセットにする事例が増えています」。医療訴訟に詳しい弁護士の水澤亜紀子氏は、こう解説する。

 限られた資料から手技の過失を立証するのは難しいが、説明義務違反は、専門知識のない患者でも主張しやすい。実際に、「医師の治療に落ち度はないが、説明が不十分」とされる判例が次々と出現しているという。

 医師の説明義務違反が問われた代表的な判例を下に挙げた。左の判例は、1991年当時に医療水準が未確立だった乳房温存療法について、医師の説明が不十分だったとされたケース。「この事例では、同療法に対する患者の関心・要望が強く、医師にも一定の知識があったことなどを理由に、説明義務違反が認められました。逆に言えば、医療水準が未確立な手法について、医師に相応の知識がない場合や、患者が特別な関心を持っていることを知らない場合は、あえて説明しなくても説明義務違反には当たりません」(水澤氏)。

 一方、右の判例では、標準的な医療として確立した複数の術式からの選択に際して説明義務違反が問われた。「こうしたケースでは、一般的なメリット・デメリットを挙げるだけではなく、より踏み込んで、ケースカンファレンスで話し合うような具体的な適応を説明すべき、というのが最高裁の判断」(水澤氏)。「 患者に細かい話をしても混乱するだけ」という考えは通用しないようだ。

医師の説明義務違反が問われた代表的な判例
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