英語を操れないと、何かと不便な世の中だ。
留学を目指すならもちろんのこと、そうでなくても、常に最新の専門知識を求められる医師にとって、英語力アップは大きな課題。
努力の末に英語をマスターした10人の医師に、オススメの勉強法を聞いてみた。


ハリソンやセシルで語彙を、症例報告で口語表現を学ぶ

松村氏が研修医時代から愛用している『セシル内科学』の原著、『Cecil Textbook of Medicine 』。

 「研修医の頃、当時留学から帰ってきたばかりだった指導医に、『どんな教科書を読んでいるのか』と聞かれたんです。『○○を読んでいます』と日本語の教科書の名前を答えると、彼は、『それじゃダメだ。ハリソンかセシルを英語で読みなさい』と。それがきっかけで、セシルの原著を読むようになりました」

 そう話すのは、松村医院(東京都世田谷区)院長の松村真司氏だ。もともと英語が好きだったものの、大学時代はほとんど勉強せず、洋書を1冊も読まないまま卒業。しかし、「将来、留学を考えているなら、教科書は原著で読んでおいた方が絶対に役に立つ」と指導医に言われたことがきっかけで、世界的に有名な『セシル内科学』の原著を読み始めた。

世界的に権威ある『ハリソン内科学』の原著、『Harrison's Principles of Internal Medicine 』。

 「最初はもちろん全然読めず、辞書を片手に1日1ページがやっと。指導医に助けてもらいながら、1週間に1章を目安に読み進めました。苦労なく読めるようになるまでに、1年半ほどかかりましたね」

 教科書を原著で読むメリットは、何と言っても医学英語の語彙(ごい)が増えること。「内科ローテーション中でしたので、いずれにしても教科書は読まなければならなかったし、原著で読んだおかげで医学英語力の土台を作ることができました。当時の指導医には今でも感謝しています」と松村氏は話す。

 聖路加国際病院アレルギー膠原病科の岸本暢将氏も、医学部時代にUSMLE(米国医師資格試験)の勉強にのめり込み、『ハリソン内科学』を原著で読み込んだ。「辞書なしで内容が理解できるようになったら、専用の問題集(『Harrison's Principles of Internal Medicine, Self-Assessment and Board Review』)に挑戦して、理解度を確認していました」と振り返る。

“使えるフレーズ” をストック
 一方、より実践的な医学英語表現を学ぶのに適しているのが、医学誌などに掲載される症例報告だ。

 中でも、『New England Journalof Medicine』(NEJM)にほぼ毎週掲載されている、マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital:MGH)の症例報告「Case Records of the MGH」を推す医師は多い。医学生や研修医を対象に、これを教材に抄読会を開く医学部や研修病院も少なくない。

「Case Records of the MGH」が掲載されているNEJM。この症例報告を教材に抄読会が開かれることも多い。

 国立国際医療研究センター病院エイズ治療・研究開発センターの本田美和子氏も、「Case Records of the MGH」の推薦者の1人だ。「教科書とは違って、実際に医療現場で使われている話し言葉で書かれているので、“ 使えるフレーズ”をストックしておくのに非常に役立ちます。声に出して読むのがポイントです」とアドバイスする。

 松村氏も、『セシル内科学』を読み進めながらNEJMを購読して、「Case Records of the MGH」は毎週読むようにしていたという。「使われている単語もそれほど難解ではないので、慣れればすんなり頭に入ってきますよ。留学後に基本的な医学英語ではあまり困らなかったのは、こうした勉強のおかげでしょうね」と話す。

 教科書で基礎的な医学英語を身に付け、症例報告で現場での実践的な言い回しを学ぶ─。医学英語をマスターするために原著を読むなら、この2 つのアプローチが効果的のようだ。