だいぶ前になりますが、医療者向けサイト「m3.com」で、「過労自殺を防ぐために、医師の健康を守る法制度が必要」という記事を読みました。2010年10月に開催された「小児科医師中原利郎先生の過労死認定を支援する会」の最終総会・シンポジウムの報告です。

 医師の過労自殺、というと多くの人が小児科医の中原医師の裁判を思い浮かべることでしょう。2010年7月に和解に至りましたが、この事件の背景には大きな、そして急いで解決しなくてはならない問題があると思います。それは、日本の医療現場では、医療者自身の健康に対する配慮が無さ過ぎるということです。

 日本の医療は、患者さんを助けることに関してはピカイチです。日本の医療者は、自分の時間が削られても、患者さんのために献身的に働いてきました。それ自体は素晴らしいことです。そして、現状としてはそうしなければ現場が成立しなくなることもよくわかります。でも、その素晴らしいことのために、自らの健康が犠牲になりかねない、ということをどうとらえているのでしょうか。

 医療は、健康を取り戻すため、健康を失わないために提供されるものです。でも、その医療を担っている医師は自分たちの健康にお構いなしなのではないか、と思うような場面にしばしばぶつかります。

 学生 「今週何時間病院にいたんですか?」
 Dr. 「わかんないねー(笑)」
 看護師 「あの先生、いっつも病院にいるよねー」

 こんな会話が日常的に交わされる世界って、「普通」なんでしょうか。

 今の医療現場では、こと医療者に関しては、肉体の健康も精神の健康もないがしろにされている気がしてなりません。前者は以前から言われ続けていますし、私自身、お世話になっている先生から午前4時にメールが来てびっくり!なんてこともしょっちゅうです。最近、それに慣れてきてしまっている自分もいて、それもどうかとは思っているのですが、後者もかなり気になっています。医療者自身が精神を病んだらどうなるのだろうか、と。

 医療従事者の精神疾患に対する偏見は、ときとして一般人よりも強いのではないか、と感じることがあります。偏見は患者さんにとっても良くないことですが、もし医療者自身が精神を病んだとしたら、果たして周囲の医療者にそれを打ち明けられるのか、ということも心配です。当然ながら、医師であっても自分に薬を処方することはできません。

 そんな状態で、長時間連続勤務や、いわゆるモンスターペイシェントへの対応をしなくてはならないのです。これが医療過誤につながったら…と考えるとぞっとします。当たり前過ぎることですが、医療者にも周囲の助けが必要なのです。

 こと精神疾患に関して、医療者の中にもいまだ根性論を振りかざす人がいます。人間ですから感情的には納得しにくいこともあるでしょうが、そこは努めて理性的に考えるべきではないでしょうか。また、自分の仲間がつらそうだと思ったら手を差し伸べられる、その程度の理解と、時間的、精神的な余裕が必要なのだと思います。

 精神疾患とストレスとの関係がよくいわれています。ストレスに対する感受性は人さまざまで、皆ストレスに強くなれ、というのは無理があります。ストレスを減らすことこそが大事だと思います。過剰勤務は肉体的にも精神的にも大きなストレスを生みますが、特に勤務医では連続して長時間働くことが常態化しています。勤務時間を短くすることが急務です。また、モンスターペイシェントを減らすための市民教育など、別角度の取り組みも必要でしょう。

 医療者自身が健康であること。これは患者さんに医療を提供する大前提です。これをないがしろにすれば、医療過誤は増え、患者さんの満足度は下がります。医療に携わる方々は、もう一度自分自身の健康について、考えてみませんか。(水)