「地域の方とともに健康課題を考える」ことこそが本番
 このようにして我々は地域診断を行ったわけだが、やりっ放しでは、地域にとってのメリットは少ない。健康課題の報告と解決策を考え、活動計画を立て、実行する必要がある。そこで、2015年12月に学生と住民、医療関係者が集まって、健康課題の解決策を考える地域診断報告会を行った。

 会場は、リノベーションを経て地域コミュニティの中心を担っている但馬地域唯一の映画館、豊岡劇場。この報告会には、市長や大学教員から医師、行政、病院事務、一般住民、高校生まで、約30人の方に 参加していただいた。豊岡市の健康課題を3つ(動脈硬化が多い、救急要請をためらう、コミュニティの希薄化)ピックアップし、データやヒアリングの結果、解決策を 、それぞれ学生が報告した。その後、解決策のブレインストーミングを行った。

 ブレストでは、リスクフリー(他人の意見を否定しない)、斬新なアイデアを重視、質より量、という3つのルールに則って爆発的にアイデアを発散させた後、個人的にいいなと思ったアイデアを3つ選んで、その理由を話し合った。ブレストで活発に意見交換ができる雰囲気を作れたためか、歩くごとに貯まる健康ポイントとTポイント(カルチュア・コンビニエンス・クラブが展開するポイントサービス)との連携、減塩食コンクール、救急要請の中高生向け授業の開催、子どもカフェなど、面白い案が次々に挙がった。このうち、子どもカフェはすでに他の自治体で行われていることであるが、市長が実行に移すと約束。その場で実務者に連絡し、すぐさま実行に向けて動き出した。今後、学生としてもできることを継続して行っていきたいと考えている。

明日へ
 ここで、改めて地域診断のメリットを振り返りたい。まず、地域医療や予防医療などで医療と他分野の連携が必要とされ、医療と地域との結び付きが深まるなかで、普段は「医療」を学んでいる学生が「地域」を学ぶ手段として有効である。学生は、講義で得た医療知識を還元すべき地域に目を向け、相対化し、自分たちは地域に何を求められているのかを再認識できた。自分自身の役割が分かれば、より地域に対してできること、すべきことも見えてくるだろう。

 学生の役割、主体性という点では、今回のイベントを学生が音頭を取って開催したこともここに寄与している。打算的ではあるが、学生が地域に対して何かしたいとなると、多くの方が協力してくれる可能性が高い。実際、今回の地域診断においても、市や県といった行政、病院などの医療機関、大学の協力を仰ぐことができた。もちろんその恩義に報いるため、住民や街にもメリットがなければならない。

 また、今回の地域診断を行う前と後で参加学生に行ったアンケートから、実際に地域に出た11人 と出なかった7人を比較分析した。その結果、地域における健康課題の認識度はもちろん、「地域で働くことを楽しそうだと感じる」、「行政との対話を苦に感じなくなった」という項目でも地域に出た人で「はい」と答えた割合が有意に高かった。言い換えれば、地域の健康課題やニーズを把握し、行政との対話ができる医療者が地域に残っていく可能性が高いということである。実際に、参加者の中に豊岡市で来年から働く人もいる。

 健康課題を見える化し、住民と共有することで、住民も自分ごととして問題を捉えることができる。地域における保健医療の割合は大きく、その問題のソリューションが地域創生につながることも考えられる。これらのことから、地域診断は、行政や住民にとってもメリットがあると考えている。

 地域活動をする際、地域医療の大先輩方から指摘され、常々気をつけていることが2つある。持続可能性と、その活動が地域ニーズに合っているかどうかである。後者に関しては、地域診断を実施することで参加学生たちがニーズに合った活動を行える。前者の持続可能性については、かの寺沢秀一先生(福井大学地域医療推進講座教授)が、「Dr.コトーは100点を遥かに超えた180点。辞めたら0点になる。地域医療を存続させるには80点を目指せ」とおっしゃっていたことを思い出す。地域活動も同様に、いくら良いことでも一度きりでは夢を見せるだけで後には何も残らない。しっかりと持続可能なものにするべく、努力していきたい。

医療系学生と住民、医療関係者が集まって、健康課題の解決策を考えた地域診断の報告会 後の懇親会にて。中央右手でしゃがんでいるのが筆者。