そして地域で「地域」を学ぶ
 地域診断は、東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センターの孫大輔先生が以前銚子市や練馬区で行ったものを参考にし、改良を加え、適宜先生の助言をいただきながら、計画を練った。 参加者は計18人で、多職種の学生が3日に分けて行った。1日目は統計的なデータを中心にcommunity as partner model(以下、CAPモデル )でまとめた。CAPモデルとは、地域診断を行う枠組みで、住民をコアとし、それらを取り巻く地域社会を構成する8つのサブシステムによる影響を評価すること。サブシステムは、「保健医療と社会福祉」を始め、「教育」「安全と交通」「政治と行政」「コミュニケーション」「レクリエーション」「物理的環境」「経済」といったものがある。ここに何らかのストレッサーが住民に働くと、健康課題が顕在化するという考えだ。医療以外の項目も評価するのは、同じ問題でも視点を変えると異なって見えるためである。

 ここで大切にすることは、なぜ?という自分自身への問いかけだ。一見、当たり前だろうと思うことにも疑問の目を向けてみる。なぜ豊岡市では人口減少が続いているのか。なぜ死因別死亡率で脳血管死亡率が高いのか。なぜ県平均と比較して高齢者の単身世帯が少ないのか。このような問いかけは2日目以降の現場でも同じである。フィールドワークやヒアリングの中で、ふと挙がってきた「なぜ?」という疑問が課題につながってくる。なぜ民間バスは廃止されたのか。なぜ専門医が基幹病院に少ないのか。なぜ住民が救急要請をためらうのか。こうした現場における疑問を抽象化、概念化して、健康課題に落とし込む。この過程は通常の研究とは逆である。

 これはエスノグラフィーという研究手法だ。通常の研究では、まず理論があり、それを実践して、その理論が合理的であったかどうかを見ることが一般的である。しかし、エスノグラフィーは人々が実際に生きている現場の具体的な事象を通して、テーマを理論的に論じる。つまり、まず現場の疑問があり、ここから何が言えるかを考えるということだ。

 概念化に当たり、模造紙と付箋紙を使用して見える化した。ここで見える化された健康課題は、「医療アクセスの悪さ」 「塩分摂取過多により動脈硬化が多く脳血管疾患での死亡率が高い」「救急の要請をためらう傾向がある」「医療提供者の不足」「地域コミュニティの希薄化」などがあった。それから、地域で活用できるソーシャルキャピタルと不足している資源を加え、介入するとどうなるかまでを考えた。