昨年8月、私は参加者を募り、兵庫県但馬地域の豊岡市で「地域診断」を行った。地域診断とは、地域の様々なデータ、情報を収集し、地域全体の健康課題を分析すること。一般的には保健師が実施し、政策立案につなげている。今回、私はこの地域診断を学生主体で行うことにした。

 地域の情報は、統計データだけでなく、実際に街を歩いてフィールドワークし、勤務医、開業医、救急救命士、介護関係者、行政、教育者、民生委員、NPO団体など関係者の生の声を聞いていくことで得られる。そこで得られた情報を見える化、概念化することで、地域の健康課題が見つかっていく。普段は都市部の大学で講義を受けている医療系学生が今回、実際に地域を歩き、自分ごととして地域の問題を探り、その解決策を考えた。

 そもそも今回、私が学生の立場で地域診断を実施しようと思った理由は、大きく分けて2つある。

地域医療の「地域」はどこで学ぶのか
 今回の企画を主催した私は、地域医療を担う医師と総合医マインドを育てる大学、自治医科大学で学んでいる。低学年時には、地域医療に従事されている先輩医師による授業が行われる。そこで先生方が口を揃えるのが、「地域医療は、医療というより地域の割合の方が大きいんだよ」ということ。「地域医療って『地域』の部分が大切なんだ、へー」と思った記憶がある。だが、同時に、「医学の社会的適応形である医療は大学で学べても、地域ってどこで学ぶんだろう 」という疑問も湧いた。当時は、地域実習で学べるんじゃないか?地域を学ぶ授業があるんじゃないか?と思っていた。しかし授業では、「プライマリケアには近接性、継続性、包括性、協調性、文脈性が大切」といった基礎知識は教えていただいたが、肝心の「地域との関わり方」は教えてくれなかった。

 地元に戻っての夏期研修でも、地域の中核病院が主張するのは、●mmスライスの高性能CTがある、PCIができるといった「どこまで都会と同じレベルの医療を提供できているか」ということだった。もしくは、在宅診療の現場を見学させてもらったこともあったが、やはり地域との関わり方については話に出ない。なぜ在宅診療をする必要があるのか。この地域で求められている医療とはどんなものなのか。こういったところは依然として見えてこなかった。やはり、その地域特有の医療ニーズや健康課題の把握は、自分たちで行う必要があると感じた。そこで「地域」を学ぶ手段として地域診断を行うこととしたのだった。

「地域枠」と「地元出身」、地域の捉え方にギャップあり
 もう1つの理由は、私が但馬地域出身者かつ地域枠(自治医科大学)の医学生であったことが関係する。

 実は、兵庫県は日本海に面しているというのはご存知であろうか。もしかすると、東日本在住の方の半数は知らないのではないかと思う。この日本海側を但馬地域という。城崎温泉や、googleのCMで一躍注目された“日本のマチュピチュ”こと竹田城などが有名である。東京都と同じ面積に20万人も住んでいないといえば、大体の現状は察していただけるのではないかと思う。少子高齢化、人口減少、若者の流出、過疎化、医師不足、診療科偏在などなど、典型的な日本の田舎の課題が山積している。

 そのため、但馬地域以外の兵庫県出身者からすれば、もはや兵庫県ではない、温泉に浸かりに行くところ程度のイメージしかない(だろう)。さらに、旧国名では但馬国(たじまのくに)として独立していたため、但馬地域は文化的にも神戸、姫路などとは異なる。方言のイントネーションも、関西弁と は異なり、むしろ鳥取のそれに近い。

 そんな状況であるので、将来兵庫のへき地に行く義務のある医学部地域枠の学生と、その他の学生とで但馬地域への見方が違うのは当然である。都市部出身の地域枠の学生は、「但馬はスキーができるし、カニが美味しいよね」と、まるで自然しか良いところがないかのように言うし、地元出身者は地元への愛着はあるものの、田舎であることを卑下する傾向にある。お互いに、但馬地域の強みや弱みを認識していない。そのため、「この地域で●●をして働くことで貢献したい」「この地域でも▲▲の分野は日本でトップクラスだから学びたい」といった思いが削がれている可能性が高い。また医学生だけでなく、住民も正しく地域の医療を認識しているとはいえない。噂や評判で病院や医療の良し悪しを決めていることも少なくない。

 こうした問題は、兵庫県だけではなく、他の県でもよくあるのではないだろうか。それぞれにその地域の本質、本当に優れているところ、弱いところが認識できておらず、供給側と需要側のニーズがマッチしないことにつながっている。そこで客観的に地域の強みや健康課題を認識する必要があると考え、各々の立場から「地域」を相対化する目的で地域診断を行った。