長嶺氏による「社会と健康」のお話。

 今回は登壇された先生の中で唯一の女性医師である長嶺由衣子氏のお話に着目したい。

 長嶺氏は、かつて沖縄の人口800人の離島で唯一の医師として2年間地域医療を担ってきた。症状が重くなってからの時間外受診や緊急搬送数が多い原因を探り、これらを半分に減らすことに成功した経験を持つ。長嶺先生のお話をまとめたものを以下に示したい。

・医療は健康を促進するものではなく、健康を損ねているから医療に掛かる。
・日本の医学教育は病気にフォーカスした教育が多いが、実際の病には社会背景や心理的な部分(公衆衛生学の分野)が深く影響している。
・病を治すには川下の症状だけでなく、その原因となる川上の部分(心理的・社会的側面)に着目することが大切。
・24時間体制で夜中に呼ばれることも多く、大変なストレスがあるのが現状。その結果、多くの医者が島の医者になりたがらない(緊急医療、予防検診、見回り、愚痴の聞き役まで幅広い業務を担当)。
・島ではヘリで運ばれる患者が大変多く、その内訳は在宅高齢者。在宅のため病に気づかないうちに重症化してヘリで運ばれるケースが多い。つまり、重症化する前に気づくこと、「見える化」がとても大切。
・病が起きる原因を分析し、様々な側面からアプローチすることが大切。

 長嶺先生のお話を聞いて、参加者の22歳の大学生(建築系学科)から以下のコメントが寄せられた。

想像以上に社会的・心理的背景と医療が関連しているということ、島で1人のお医者さんという医師不足の現状は衝撃的でした。また、医療従事者以外の人も病気の川上の原因を分析し解決するという部分で貢献できる可能性があると感じました。例えば単身者を「見える化」することに関しては自然にコミュニティが生まれるような「住まい」を作るというアイデアもあると思います。医療に関わる仕事は病院で働く人だけでないことを知り、どのような業界・分野に携わる人であれ、医療の現状を知ることは重要なのではないかと感じました。

関根一朗氏による「泣く子も笑うDr.イチローのピエロ式診察法」。

 非常にユニークなテーマのお話もあった。小児医療に全力を注ぐ関根一朗氏による「泣く子も笑うDr.イチローのピエロ式診察法」という講演だ。講演開始直後には「救命救急医に必要なスキルはなにか?」「正しい子どものあやし方とは?」を参加者に考えてもらい、発表してもらう課題もあった。

 関根先生のお話の中で私の琴線に触れたのは「1人のウォーリーを1000人の中から見つけ出すために、私は日々、小児医療に全力を注いでいる」という言葉だった。

参加者は与えられたお題ごとに自分の意見を考える。

 一般の方が急にこの文章を見ても「?」マークが浮かぶことだろう。患者さんは軽症〜重症まで様々で、一度の検診では軽症に見えていても実は重症だったりすることがよくある。しかし、そういった実は重症という患者を見逃すことは大問題でもある。999人のダミー患者(普通の軽症患者)と1人の隠れたウォーリー患者(軽症患者に見えるが重篤な疾患を秘めている可能性がある患者)を見抜くことは非常に難しい、というお話だった。みなさんも一度は読んだであろう「ウォーリーをさがせ!」の問題は、小児医療でも存在するのだ。

 登壇された4人の医師たちのお話は常に参加者のみなさんを笑いの渦に巻き込んでいた。タメになる医療の話を、分かりやすく、楽しく、面白く届けていた。様々な分野の人のプレゼンテーションが話題となるTED Conferenceのように、話術で参加者の意見を引き出す新しい医療コミュニケーションのカタチがこの空間にはあると感じた。